アマゾン第二本社のむこうに

アマゾンがシアトルに続く第二の本社のための場所を探している。

2017年9月7日、アマゾンは同社の第二本社 (HQ2) を新たに設置することを発表し、北米 (アメリカ、カナダ、メキシコ) の大都市統計地域、州、郡および市から、HQ2誘致の提案を募った。

公表された提案依頼書 (RFP) は、HQ2の候補地に希望する条件を次の通り列記している:

  • 100万人以上の人口の都市圏
  • 安定的なビジネスに友好的な環境
  • 技術者を集め、維持する潜在力のある都市あるいは郊外のロケーション
  • ロケーションと不動産の選択肢を考慮するにあたり、大きくそして創造的に考えることができるコミュニティ

また、HQ2の望ましい条件として以下を挙げている:

  • 都市型あるいはダウンタウンのキャンパス
  • アマゾンのシアトルのキャンパスと似たレイアウト
  • 開発の準備ができているサイト

さらにはHQ2の理想的なサイトの要件として、当該都市の中心部から30マイル (48km) 以内であること、国際空港まで45分以内の距離にあること、公共交通機関のアクセスが良いことを求めている。そして主要選定基準として、HQ2誘致に与えられる優遇措置、高等教育を受けた労働力や大学が存在すること (多くの雇用が生まれるため)、最寄りの空港からシアトル、ニューヨーク、サンフランシスコ、ワシントンDC行きの直行便があること、住民に多様性があること、生活のクオリティが高いこと、娯楽施設の存在を挙げた。

この公募に対して、締切日の2017年10月19日までに、238の都市圏がHQ2の候補地として名乗りを上げ、それぞれ提案書をアマゾンに提出した。そして2018年1月18日には、一次選考の結果、ボストン、ニューヨーク、ワシントンDC、トロント、デンバー、ダラスなどを含む20都市圏が最終選考に残ったことをアマゾンは発表した。これらの20都市圏の中から最終的にHQ2の都市が選ばれて、2018年内に発表されることになる。

1.

多くの都市がHQ2の候補地として名乗りを上げたことは、少しも驚くことではない。アマゾンによれば、HQ2のホスト都市では、向こう10-15年にかけて、平均10万ドルを上回る給与水準の5万人の従業員を雇用することになり、50億ドル以上の資本投資を見込んでいる。HQ2に選ばれた都市には巨大な投資と雇用がもたらされることになる。

ニューヨーク市もHQ2の候補地に名乗りを上げた。実店舗のビジネスを支持するビル・デブラシオ市長は一度もアマゾンで買い物をしたことはないというが、それでもHQ2は市にとって望ましいのだという。全米で最も多くのテクノロジー関連の労働力が存在すること、金融や法律、ファッションなど様々な産業が共存することなど、ニューヨークに本社を構える利点をアマゾンにアピールした。HQ2の候補サイトとしては、マンハッタンのウェスト・サイド (ハドソン・ヤーズ)、ロウワー・マンハッタン、クイーンズのロング・アイランド・シティ、ブルックリンのダウンタウンからDUMBOそしてネイヴィー・ヤードにかけてのネイバーフッドを提案している。RFPが詳細を求めている優遇措置については、どの企業にも等しく与えられる優遇措置以外に、アマゾン向けに特別な優遇措置を与えることはないと発表した。

ニューヨーク市とは対照的に、ニュージャージー州は50億ドル相当の優遇措置を与えるとして、やはり候補に名乗りを上げた。一方カナダのオンタリオは、特別な優遇措置は与えないものの、その代わりに教育を提供することを提案した。米国内で企業の誘致や引き止めの目的で与えられる各種補助金は、控えめな試算で1年に700億ドルに達するともいわれる。企業は優遇措置でロケーションを決定しないということがコンセンサスになりつつあるものの、州や市が優遇措置の大盤振る舞いを続けている。経済開発の最善の方策は良いエコシステムをつくること。そんなことは理想論とばかりに棚に上げ、目先のメガ・ディールを追いかけるのに忙しいのは変わりそうにない。

トロントやバンクーバーは、カナダの就労ビザがアメリカの制度よりも柔軟であることを強調し、アマゾンが多くの技術職を必要とするなら、世界の才能にアクセスが可能なカナダが有利であることを主張した。HQ2誘致に向けたアマゾン・フィーバーは誘致条件以外でも繰り広げられた。ニューヨーク市は提案書の提出に合わせてエンパイア・ステート・ビルをアマゾンのオレンジ色にライトアップし、アリゾナ州のタスコンはご当地の巨大なサボテンをCEOのジェフ・ベソスに送った。もっともアマゾンは会社として贈り物を受け取らない方針のため、そのサボテンはアマゾンから砂漠博物館に寄贈されることになった。

2.

HQ2の前に、まずはシアトルのHQ1を振り返っておこう。

2018年1月、アマゾンはシアトルの七番街にアマゾンGoをオープンした。主に食料品を売るコンビニのような実店舗だ。ダウンロードしたアプリにアマゾンのアカウントでログインし、支払に利用するカードを指定すると、QRコードが与えられる。そのQRコードをスキャンして店内に入り、あたかも万引きでもするように欲しい商品をとってそのまま立ち去れば (“just walk out”)、しばらくするとアマゾンからレシートがメールで送られてくる。買った商品の他に、店内にいた時間も秒単位でレシートに記載されている。レジに列を作って待つ必要はない。

アマゾンGoではアマゾン・ブランドのミール・キットが販売されている。18.99ドルと19.99ドルの二種類があり、食事がひとつのボックスにまとめられていて、そのボックスひとつで前菜と主菜が完結する。いかにもアマゾンらしい。ホール・フーズを傘下に置くアマゾンにとって、フード商品の開発はたやすいはずだ。衣食住のうち、衣食まではアマゾンで生活することができるようになった。いずれは年に数万ドル払ってアマゾンのライフ・キット会員になれば、アパートも毎日の食事も面倒みてくれて、アマゾンだけで生きていくことができるようになるのかもしれない。アマゾンのアパートに住み、消耗品は足りなくなる時期を予測してアマゾンが自動的に補充し、栄養を考えたうえでアマゾンが準備した食事を食べる。毎日毎日何を食べるのか、これで頭を悩ませる必要もなくなるだろう。アマゾンは銀行口座に似た口座の開発を検討中だと伝えられている。銀行口座やクレジット・カードよりも、アマゾン口座がより一般的な支払手段の通貨として流通する世界を早く見てみたいものだ。

全方位的に攻め続けるアマゾンは、創業地のシアトルでオフィスの拡張を続けている。アマゾン本社は、もともとはシアトルの中心地から南に外れたビーコン・ヒルの丘の上に立つ建物にあった。メディカル・センターを部分的にオフィスへと転用したパシフィック・タワーはシアトルのダウンタウンからは離れていて、アマゾン以外の企業もその同じ建物の中にオフィスを構えていた。アマゾンがシアトル中心部への移転を発表したのは2007年のこと。シアトルのダウンタウンの北に位置するサウス・レイク・ユニオンのネイバーフッドに建設される11のオフィス・ビルを借りることが発表された。

2011年までにパシフィック・タワーを引き揚げたアマゾンは、2017年にはシアトル中心部の33のオフィス・ビルに810万平方フィート相当のオフィスを抱えるまでになり、2010年に5千人だったシアトルの従業員数は4万人を超えた。いまやシアトル最大の雇用者のアマゾンのキャンパスは、サウス・レイク・ユニオンの南のデニー・トライアングルにまで拡張している (アマゾンGoはデニー・トライアングルにある)。オフィスは自社所有のものと賃貸が混在するが、その多くは新たに建設されたもので、まだまだ建設計画が続くアマゾンのおかげでシアトルは建設ブームに沸いている。その90%がシアトルに集中するワシントン州のテクノロジー職は年に10%のペースで増加中だ。キャンパスの急成長は従業員以外にも恩恵を与えていて、レストランなどで間接的に5.3万人の雇用をシアトルにもたらしているとアマゾンは発表している。通りかかった人たちにバナナを無料で配るバナナ・スタンドは、いまやアマゾン・キャンパスの名物だ。

3.

HQ2が多くの注目を集めている理由のひとつは、HQ2の候補地を選ぶ方法として公募の形式をとったことにある。そのやり方をクラウドソーシングと呼ぶ人もいる。なるほど238の都市圏から提案書を受け取ったアマゾンは、それぞれの地域について、労働力、生活のクオリティ、公共交通機関の状態、R&D拠点、倉庫や出荷センターの数などについて多くの情報を得たはずだ。効率的に情報収集できたアマゾンは、HQ2には選ばなくても、将来的なHQ3、HQ4の候補地についても目星をつけ始めたに違いない。

もうひとつは、アマゾンがRFPで詳細な条件を予め提示したところにある。そのRFPはといえば、シアトルのキャンパスを都市型キャンパスと表現し、同社によるサウス・レイク・ユニオンの開発が多くのコーヒーショップやレストランをもたらしていることを述べて、さらにはサステイナブルな建物やオープン・スペースにも言及する。HQ2のRFPは、近年流布する希薄なアーバニズムのカリカチュアとでもいった具合だ。ジェイン・ジェイコブスをパワーポイントのスライドに圧縮したアーバニストは、都市の成功要件をツールキットにして熱心に売り込んできた。定量化可能なクライテリアを設定することで、世界の都市は一直線上に並び、優劣の判断が可能になる。企業を誘致したければ、RFP通りの都市をつくればいい。

アマゾンがHQ1をシアトルのダウンタウンに移転することを発表したのが2007年だったことを思い出そう。AWSの成長時期とも重なり、拡大路線へと舵を切ったと考えられるが、移転の判断は社内の要因だけでもなかったようだ。都市の中心部へと人が戻り始めているらしいと一部のアーバニストが色めき立ち始めた頃、そうした傾向やデモグラフィクスを洗い出したうえで、サウス・レイク・ユニオンの開発を決定したことをアマゾンは明らかにしている。他の企業が動き始めるよりもずっと早い時期に、ストラテジーとして本社移転にとりこんだ。

アマゾンのサイトで商品を価格順に並べ替えて比較するように、多くの都市から受け取った提案書を項目ごとに並べ替えて、それぞれの都市に点数をつける。都市は提案を出して、その中から選ぶのはアマゾンだ。ほとんど仕様書というべきRFPに明らかなように、両者の関係はむしろ顧客とベンダーのそれに近い。多くの都市が急ごしらえでレッド・カーペットを準備したのも無理はない。

もっとも、HQ2は必ずしも特殊なケースではなく、近年顕著な傾向をいくらかあからさまに示しただけのこと。激化する都市間の競争に生き残るためには、才能を集めることが何よりの課題だと喧伝されている。それは住民や企業を顧客としてフレームすることに成功した。素敵な公園をつくろう、人はアメニティを求めて都市にやってくる。公園には多くの観光客もやってくる。企業、住民、観光客はプルダウン・メニューから都市から選び、気に入らなければ他の都市へと去ってゆく。とにかくお客様をハッピーにすること。HQ2は世界の都市に浸食するお客様アーバニズムのひとつの通過点にすぎない。

こうしたツールキット化されたアーバニズムは、どこかアマゾンGoと似たところがある。シームレスな利便性に特徴的な功利主義の上に、コスト効率とスピードの等式を解く。アーバニストが準備した成功の方程式に、アマゾンが忠実に従っているのも頷ける。世界の都市が成功やパフォーマンスの計測に同じ指標を用いてその改善に努めたとしたら、その結果どこも同じような都市ばかりになるのは当たり前のことだ。その処方箋を書いたのはアーバニストだったはずだ。

4.

HQ2が示唆するもうひとつの点は、企業がそれ自体ひとつのソヴリンとしてふるまい始めているということ。1980年代以降台頭した多国籍企業は、低廉な労働力を求めて国民国家のボーダーを超えて移動を続けた。それはもっぱら国家の規制を迂回する方策だった。いまや一部の企業は、自治体はいうまでもなく、州そして国家と同じテーブルにつき、正面から交渉を始めている。アマゾンのHQ2のように、より良い条件を引き出すうえで、政府よりも企業の方が交渉上有利な立場に立っていることは珍しくない。

気候温暖化やグローバル化など、今日の課題の多くに取り組むには、国民国家がふさわしいスケールや単位ではないと考える人が増えている。もはや国民経済といえるものは存在しない。そして国民国家そのものがその原則に反することをし始めているのは、フォーマットとしての国民国家の行き詰まりに自ら気づいているからなのだろう。企業や都市など、従来国民国家の枠組みの中に埋め込まれてきたプレーヤーが、その綻びを補うようにふるまい始めているのも当然なのかもしれない。

世界はグローバリストが夢見るボーダーレス・ワールドとはほど遠い。世界がひとつの市場、ひとつの貨幣、ひとつの文化に集約されることはなく、むしろ多くのボーダーが新たに引き直されて、これまで異なるレベルにあると考えられていたプレーヤーが混然と入り混じりつつある。多くの企業が独自の貨幣を用い、市場を囲い込み、固有の経済圏を形成する世界の方が、退屈きわまりないボーダーレス・ワールドよりも現実味を帯びてきた。それがオルタナティヴなモデルになりうるのか、それともゲーテッド・コミュニティのようなディストピアとして現れるのか、その行先はまだみえそうにない。HQ2がどの都市に決まるのかよりも、その足元で働いている地殻変動にこそ注目しておきたい。

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