離脱するのは英国かロンドンか

英国のEU離脱をめぐる国民投票の結果は多くの人にとって予想外だったようだ。

誤った選択をした無知な大衆に対してエリートが立ち上がる時だという人もいる。損得勘定ができない「愚衆」には啓蒙が必要だということらしい。

英国に住んでもいない者に離脱の是非を考えることはできないが、それが示唆しうることをいくつかつけ加えてみることはできるかもしれない。

1.

ジェフリー・ウェストは「都市の科学」を主張する。

そのサイズが大きくなればなるほど、都市の生産性はいっそう高まり、より多くの富やイノベーションを生み出すことになる。

たとえば人口が2倍になると、都市の平均賃金や生産性、研究機関や特許の数は一定の割合で増加するという。体が大きくなるほどエネルギー代謝率が落ちる動物とは正反対だ。

都市に固有のこの収益逓増を「スーパー・リニア」とウェストはよんでいる。

都市は成長を牽引するエンジンだ。都市部に多く人が住む国ほどより豊かになる傾向にある。ただし、そこにはアノマリー (例外) が存在する。それは英国だ。

2.

ウェストによると、英国の都市システムは「スーパー・リニア」ではなく「リニア」だという。世界のほかにはみられないことだ。

一方、ロンドンだけをとりだしてみると、そこには「スーパー・スーパー・リニア」とでもいえる著しい収益逓増がみられる。

スケール則による富のほとんどがロンドンで生み出され、吸収されていることになる。サイズが大きくなると1人あたりの富も増える恩恵を、英国は国として享受していない。

「まったくの思弁」と前置きしつつ、「英国はEUではなくロンドンに対して反対票を投じたとはいえないか」とウェストはいう。

EU離脱に票を投じた人たちは、愚衆どころかスケール則のアノマリーを正確に認識していたのかもしれない。みんなの意見は正しいこともある。

3.

大陸の都市にとって、英国のEU離脱はビジネスを誘致する願ってもないチャンスだ。

6月23日の離脱投票結果が明らかになったほんの数時間後には、イル=ド=フランス地域圏 (パリを中心とする地域圏) が同地域に企業を誘致する広告をツイッターに出した。

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フランス政府は、同国に引越すことを決めた銀行のエグゼクティブ向けに最大50%の所得税控除を含む優遇策を発表している。企業ではなく個人を対象とする誘致策だ。

別の大陸のオフィスに引越し、それまでと同じ端末に向かい、同じ英語で、同じプラクティスに取り組む。世界を転々とする「浮遊層」とでもいうべき人の数は少なくない。

4.

ニューヨークも浮遊層の出入りが激しい都市だ。

先月は知人がニューヨークから香港に引越した。世界中の都市にオフィスがある金融機関の社内転勤制度に応募した結果だ。

友人の建築家は事務所を立ち上げる同僚に誘われて、アジアの都市へと引越した。

現地の空港に朝5時に着き、その正午にはクライアントとの打ち合わせが待っているといいながら旅立った。英語圏の国ではないが打合せは英語のため問題はない。

一方、部門の閉鎖で失職した知人はチューリッヒの投資会社からオファーを得た。引越すのかと思ったら、チューリッヒは退屈だといってオファーを断り職探しを続けている。

彼らにとってニューヨークもロンドンもアムステルダムも変わりはない。ちがいがあるとすればどの都市がより楽しいのかぐらいだろう。

現地の言語を習得する必要もない。国としては様々でも都市内はほぼ英語圏だ。

5.

ビジネスの誘致、そして温暖化から難民問題まで、政策の主役が国から都市へと移動している。地域により大きな自律性を与える「デヴォリューション」も着実に進んでいる。

英国では地方自治体が集合し、共有的な経済圏を形成する例も出てきている。多くを共有する近隣から成る「都市圏」や「地域圏」は、国よりも自然な経済圏といえる。

英国がEUを離脱するなら、英国の都市は都市レベルの協業によって大陸とのつながりを確保することもできるはずだ。

ブルッキングス研究所のブルース・カッツは、英国こそ「地域の国際主義」をリードすることができると主張する。

国際的なつながりは、グローバル都市だけではなく小規模の都市圏にとってより重要になるだろう。「地域主義」と「グローバル化」は相反しない。むしろ相互に補完し合う。

6.

ロンドン市長のサディク・カーンとパリ市長のアンヌ・イダルゴは、離脱投票の翌日に共同でメッセージを発表した。

ロンドンとパリは両都市間の同盟を築いていくというものだ。英国がEUを離脱しても両都市はより一層緊密に協調することをあきらかにした。

その数日後には、フランス国民戦線のマリーヌ・ル・ペンがニューヨーク・タイムズに寄稿し、英国の離脱投票を国民主権を回復する「人民の春」として賞賛した。

「Brexit」に続く「Frexit」を支持するル・ペンは、寄稿のなかで欧州は決して同質的ではないと主張している。ポーランド人にスペインのことは決められないというわけだ。

なるほどパリがロンドンとの連携を表明したところをみると、フランス国内も決して同質的ではないらしい。フランスがパリのことを決めるのには無理があるようだ。

7.

ロンドンは英国と利害を共にしていない。むしろニューヨークや大陸のほかの都市とより多くの利害とマインドセットを共有している。

都市の成長力の源泉がスケール則のネットワーク効果にあるとしたら、ウェストにいわせると、その恩恵を享受していない英国には「都市が存在する意味がない」。

地域主義とグローバル化が進む後景で、都市と国の溝は深まる一方だ。

英国のEU離脱が示唆することのひとつは、ルペンが誘導するような国民国家への回帰ではなく、むしろモデルとしての国民国家のいっそうの後退だ。

「19世紀が帝国によって、20世紀が国民国家によって規定されたとすれば、21世紀は都市のものになる」。ロンドンとパリの共同声明はそのマニフェストともいえる。

ロンドンは世界で最もグローバル化した都市だともいわれる。その英国を「アノマリー」と片付けてしまうことはできそうにない。むしろ大きなヒントがあるようにみえる。

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