オルタナティブを探して: アテネ、ベオグラード、サラエヴォ

9月15日:

1年4ヶ月ぶりのアテネ。世界中でこんなに面白い状況の国はほかにない、自分の目でそれをみてみるチャンスだ。アテネに住む友人にそういわれて寄ってみた。

ギリシャはもう何年も金融危機の状態にある。そのためか、昨年訪れたときとアテネは大きく変わったようにはみえなかった。

金融危機と無縁なのは観光業だけ。Airbnb向けに部屋を改修するビジネスは活況だという。ギリシャの状況とは裏腹に、今年の観光客数は記録的な水準に達する見込みだ。

ギリシャの国民は1日に60ユーロしか銀行から引き出すことができない。ほかのEU国からやってきた観光客はいくらでも引き出すことができる。

EUに残るにしろ離脱するにしろ、いずれにしても深い混迷が約束されている。ギリシャにオルタナティブといえるものは存在しない。「ようこそEUの実験台へ」。

9月16日:

ギリシャからの頭脳流出が続いている。英語やほかの欧州の言語が話せて、外国の学位とプラクティスを身につけている人ならギリシャにいる方がおかしい。

これまで国内に仕事があった友人たちも、いよいよギリシャを離れることを考え始めている。引越し先としてブリュッセルを考えているらしい。

ロンドンは一元的なゲームにのみこまれていてつまらない。ベルリンがオルタナティブな都市などというのはもはや悪い冗談だ。

そうした都市とは異なりキャラクターのあるところとなると、ブリュッセルやアントワープ、オランダの各都市になる。建築と都市を仕事にする彼ららしい考え方なのだろう。

ブリュッセルに引っ越す人が増えているという話は少し前から聞いている。「目指すべき都市」としてその名前が真っ先に出てくる場所ではなかったはずだ。

世界中に拡散している毎度おなじみの都市のゲームに飽きた人が増えているのだろうか。

もっとも、ブリュッセルが本当に新しいモデルを提示しているのか、それともロンドンやベルリンのゲームを移植した「もうひとつのロンドン」なのか、私にはまだわからない。

「引越し先は選ぶことができる、ギリシャがまだEUのうちに」。

9月17日:

ベオグラード。1.2百万人が住むセルビアの首都は派手なナイトライフでも知られ、域内から多くの人たちが遊びにやってくる。

SavamallaSiteサヴァ川沿いのサヴァマラは、いま欧州で最もホットなネイバーフッドだといわれている。

自動車修理工場などが並ぶ軽工業の地区にバーやアート・スペースがオープンし、多くの人たちが集まる。

市は「バルカンのクリエイティブ・シティ」を謳う。

なかでも人気と聞いたバーに寄ってみると、やけに見慣れた光景が広がり、奇妙な既視感に襲われた。少し前のブルックリンのようにもみえる。

ベオグラードでは独立系のビジネスが成長するのは難しいという。旧社会主義の影響もあるのかもしれない。その意味でサヴァマラは新しいオルタナティブなのかもしれない。

サヴァマラが固有の文脈から生成したネイバーフッドなのか、それともあちこちにある「クリエイティブ・シティ」のベオグラード支店なのかを見きわめる時間はなかった。

9月18日:

ノヴィ・ベオグラード (新ベオグラード) 。サヴァ川の西に位置する地区。

にわかに注目を集めるサヴァマラだが、その開発案は、ベオグラードに初めて都市のプランニングが導入された1923年にまで遡る。

だが、第二次世界大戦後には開発の前線はサヴァ川の西にむかう。1940年代には人が住んでいない土地を開発してノヴィ・ベオグラードの建設が始まった。

NewBelgradeReal

効率の名の下に、ばかばかしいほど巨大なスケールのブロックに巨大な住居棟群。1ブロック歩くだけでも疲れてしまう。

その名の通り、ノヴィ・ベオグラードはベオグラードのオルタナティブと考えられた。都市が物理的構造を意味した20世紀の「理想都市」には、いまも20万人以上住んでいる。

近年はそこに住む人たちが、その住居棟を計画した者の意図を超えた用途に使い始めていると聞いている。上からのオルタナティブには下からのオルタナティブを。

都市のデザインでは社会主義とモダニズムが交錯する理想都市、経済のデザインでは市場にもとづく社会主義。20世紀のベオグラードは壮大なオルタナティブを試みた。

2014年6月、セルビア政府はドバイの投資を得てサヴァ川のウォーターフロントを開発する新しいプランを発表した。

BelgradeDevelopmentビジネスのハブのほか、高層住居棟やバルカン最大のショッピング・モールが建設される予定だ。

開発予定地には長距離列車の駅とバスターミナルが大きく場所を占めている。

公園では多くの難民たちがテントで生活している。市の意図は容易に想像できる。

望ましくない場所を一掃することで新しい地区をつくることはできるだろう。だがその都市の考え方は、21世紀のオルタナティブにはなりそうにない。

9月19日:

ウォーターフロントの開発プランが実現すれば移転になるターミナルからバスに乗りこみサラエヴォへと向かう。

かつてはベオグラードとサラエヴォの間は列車が走っていたが、いまはバスしかない。線路はいまでもあるというのに。

Border34時間近くでセルビアとボスニア・ヘルツェゴビナを分ける小さな川の手前でバスが停まり、セルビアの出国審査官が乗客のパスポートを回収する。

しばらくしてパスポートが戻ってくると、バスは川を渡り、渡ったところで今度はボスニア・ヘルツェゴビナの入国審査官がバスに乗り込み、乗客のパスポートを回収する。

アテネに住む友人は1990年代に電車でベルリンまで行ったことがある。当時は1本の列車でバルカンを縦断することができたという。

その昔バルカンはユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国という連邦国だった。いまでは通貨もなにもかも異なる多くの小国だ。

ひとつだったものが突然バラバラになり、争い合うようになる。信じられないほどあっという間にそれは起こり、起こった後にはずっと昔からそうだったと主張する。

9月20日:

サラエヴォ。多くの歴史が通り過ぎた都市。

サラエヴォの人たちは、食べ物ひとつにもオスマン帝国にまで遡るいくつもの歴史の層を読みとるだろう。街にはオーストリア=ハンガリー帝国や社会主義の足跡が残っている。

SarajevoPedestrianサラエヴォには、カトリック、オーソドックス、ムスリム (そして少数のユダヤ) が数世紀にわたり共存していた。

そこには必然的に困難が伴う。サラエヴォの人たちが共存を願うにもかかわらず、様々な事件が起きる。

前世紀はサラエヴォに始まり (1914年) サラエヴォで終わった (1996年) という人もいるが、的はずれではないのだろう。

1992年から4年近く続いた包囲下では、多くの人たちがサラエヴォを去っていった。

その一方で、数は多くないが、包囲下のサラエヴォにわざわざ戻ってきた人たちもいる。

今日のサラエヴォはかつての「複数性」のサラエヴォではないといって、紛争が終結した後に去っていった人たちもいる。

セルビア人やクロアチア人にはつねに逃れる先があった。現地で話をした人はそういう。ムスリムの彼にはそれがない。トルコは遠すぎる。「自分にはサラエヴォしかない」。

9月21日:

コニック。サラエヴォから南に45キロ離れた小さな町。そこからさらに3キロ山中に入ったところにチトーがつくった核シェルターがある。

そのシェルターの中で開催されているというビエンナーレを観に行ったが、シェルター内に設備上の問題がみつかったということで、あいにくその週は公開が中断されていた。

かわりにビエンナーレの主催者とサラエヴォで会うことになった。冷戦をテーマにしたビエンナーレを始めた経緯や、防衛省に帰属するシェルターの利用に至る話をしてくれた。

SarajevoTop2バルカン全域で、豊かな者と貧しい者への二極化が進み、ミドルクラスが消滅している。

それは旧ユーゴスラヴィアの解体とともに始まったと彼らは主張する。

彼ら自身を含む多くの人たちは、いまでもチトーを高く評価しているという。

「いろいろな人たちがひとつのところに一緒に住む、それがチトーの目的だった」。

2時間近く続いた彼らとの話の最後に、旧ユーゴスラヴィアに戻りたいかと聞いてみた。「いまとなってはそれは不可能な選択肢だ」。

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