アルゴリズムは世界の問題を解決する?

ツイッターでパンチを交わし、相手が本気になればしめたもの。観衆の前にひきずり出して、いよいよショーのはじまり。

対戦相手はビッグネームや人気者にかぎる。果たし状は大歓迎。向こうがリングに背を向けるまで、何ラウンドでも応戦しよう。

1.

「テクノロジーやアルゴリズムが人類のあらゆる問題を解決する」—。

クレイ・シャーキーケヴィン・ケリースティーブン・ジョンソンなどおなじみのテクノクラートたちが、こうした考えを広めている。

気をつけよう。それは都合のいい解釈のよせ集めにすぎない。エフゲニー・モロゾフはそういう。

2011年に「サイバー空想家」を攻撃したモロゾフは、2冊目の著書『To Save Everything, Click Here』で、テクノロジー主導のソリューションをあらゆる角度から検討している。

2.

ソリューションを万能視する「ソリューショニズム (solutionism)」は、幅広い分野に広がっている。

犯罪を起こしにくい環境をつくることによって犯罪を予防する「状況的犯罪予防論 (SCP)」も、ソリューショニズムのひとつだ。

ニューヨークの地下鉄は、乗車券をもっていないと構内に入れないつくりになっている。無銭乗車は物理的に難しい。

改札がなく、誰でも構内に入れるベルリンの地下鉄と対照的だ (乗車券をもっていないことがわかると多額の罰金を支払うことになる)。

犯罪の背景に何があるのかを考え、社会条件を変えたり、犯罪者を更正するよりも、予防措置をとる方が手っ取り早く簡単だというのがSCPの考えだ。

犯罪者の行動パターンを分析することで、犯罪を予測、未然防止する試みも、同じ考えにもとづいている。

犯罪が減ることに反対する人はいない。だが、それは犯罪の背後にある、より大きな問題を見失うことになる。

テロ対策を考えてみよう。

米国は、テロリストを捕まえて処罰することで、テロをなくそうとしている。アルゴリズムの予測にもとづくテロの未然防止にもとりくんでいる。

そこでは、なぜこの国がテロ攻撃の対象になるのか考えることはない。テロが起こりさえしなければ、そんなことを考える必要はないということなのだろう。

SCPが広く受け容れられるようになったのは、対テロ戦争で米国が先制攻撃を正当化してからだとモロゾフはいう。

3.

タクシーに乗りたいときには、いつやってくるかわからない空車のタクシーを待つよりも、乗客とタクシーを結びつけるアプリがあれば便利だ。

ニューヨーク市では、タクシー (イエロー・キャブ) をつかまえる「Uber」などのアプリが、ようやく試験的に導入されることになった (2013年5月時点)。

タクシー産業をとりまく法律の観点から、アプリの合法性が疑問視されていたためだ。

uber

こうした規制は時代遅れで、ビジネスの効率化を妨げているという人は多い。

その指摘はおそらく正しい。だが、タクシーは公共交通機関だということを思い出そう。

必ずしも効率性や利益追求のためだけに存在しているわけではない。

より多くの人たちが平等に利用できるようにするのが公共交通機関の目的だ。

テクノロジー・ビジネスには、社会的な効率化を推進するものが多い。「シェア経済」とよばれるものも、経済的な観点からみれば、資源の再分配による効率性の追求だ。

新しいテクノロジーが手に入った。そのことによって、どういうわけか、公共性や公平性の問題が、効率性の議論にすりかわることが多いようだ。

ニューヨーク市では、タクシーは「公共財」と定義されている。経済学によると、公共財に市場原理はうまくはたらかない。

公共財を市場にしようというのがテクノロジー・ビジネスだとすれば、それは「ソーシャル」というよりも「新自由主義」の新しい顔のようにみえる。

グーグルのラリー・ペイジが、政府のあらゆる規制を排除したレッセ・フェールのユートピアを提唱しているのは不思議ではない。

4.

膨大なデータによって、あらゆる関係性やパターンが明らかになると、ビッグ・データが喧伝されている。

クリス・アンダーソンは、従来の科学のように仮説の必要さえなくなるとして、「理論の終焉」を宣言した。

もう私たちは考える必要はない、データそれ自体がすべてを教えてくれるというわけだ。

あるデータによると、『マッドメン』を好きな人の75%は『ブレイキング・バッド』が好きらしい。

『マッドメン』を買った人は『ブレイキング・バッド』を買う可能性が高い。なぜそうなのかはわからない。データがそう告げているのだから、とにかくそうなのだろう。

そもそも「なぜ」を考える必要はない。とにかく売れればいいのだから。

だが、社会的な問題は話が別だ。

ニューヨークでは貧富の差がますます拡大している。

国勢調査はこうした変化について教えてくれる貴重なデータ群だ。ニューヨーク市はありとあらゆる方法でそのデータ分析を続けている。

censusそこには、住民の所得と生活形態の間にさまざまな相関がみられる。

しかし、相関からは、なぜ貧富の差が拡大するのかはわからない。

それを変えようとするなら、それがなぜ、どのように起こるのか、そのメカニズムを理解することが必要になる。

もっとも、貧富の差を「是正すべき問題」と考えるのなら、だが。

ビッグ・データの相関は、これまでのトレンドがこれからも継続すると考えるしかない。変化のメカニズムを探るにはモデルが必要になる。

そしてどんなモデルもひとつの解釈であり、モデルはモデルにすぎない。ウォール街のクオンツたちはそのことを痛いほど知っている。

5.

2012年に出版された『Future Perfect』で、ステーブン・ジョンソンは仲間のネットワークにもとづく進歩主義「ピア・プログレッシブ」を提唱している。

トップダウンではなく、私たちが選んだリーダーが意思決定をする代表民主制でもない。「P2P」といえばいいかもしれない。

キックスターター」、路上の陥没場所を報告するアプリの「HitThePothole」、「ウォール街を占拠せよ」など、すでに実践例はある。

kickstarterそのうえでジョンソンは、政府をキックスターターのように運営すればいいという。

キックスターターはクリエイティブなプロジェクトを支援するすばらしい仕組みだ。

支援したいプロジェクトにふさわしいと思う金額を出し、興味のないプロジェクトには何もしなければいい。自分独自の判断を下せばいいだけだ。

参加者の関心やそこから得られる利益は、あらかじめ共有されている。

hitthepoだが、私たちの社会はキックスターターとは根本的にちがう。

異なる考えや利害関係にある人たちが、限られた資源をめぐって、互いに干渉し、影響しあい、ときには反目しながら競争する。

その結果、環境やゲームのルール自体が変わっていくのが社会だ。

それは必ずしも悪いことではない。都市や金融市場を著しく動的にしている理由はここにあると私は考えている。

6.

ジョンソンやクレイ・シャーキーは、ボトムアップのすばらしさをことさら強調する。それを可能にするのが、ほかでもないインターネットだというのが彼らの持論だ。

ボトムアップやエンパワーメントは美しいスローガンだ。「あなたが主役だ」といわれて、悪い気がする人はいない。

だが、エンパワーメントは目的ではない。エンパワーメントを得たところから、ようやく本当の問題が始まる。

バブルは繰り返し生まれ、はじける。暴動やファシズムを私たちは何度も目にしてきた。ボトムアップの世界に特有のこうした問題は、なぜ起きるのだろう。

テクノクラートたちは、キャッチフレーズを広めるのには熱心だが、それがどのようにはたらくのか、実際にどう運営していくのか、具体的なことには関心がないようだ。

7.

テクノロジーによる「クイック・フィックス」は、私たち1人1人が問題について考え、パブリックに議論し、さまざまな選択肢を試してみる機会を奪う。

モロゾフの論点はここに集約できる。彼が雑誌上の公開論争を好んで引き受けるのは、その裏返しなのかもしれない。

スティーブン・ジョンソンと誌上で論戦し (第1ラウンド第2ラウンド)、挑戦状を叩きつけてきたティム・オライリー「ハスラー」とよび、テクノロジー・ジャーナリストのファハド・マンジューとは公開書簡で舌戦を展開した (第1ラウンド2ラウンド3ラウンド第4ラウンド)。

礼儀を知らない才気走った28歳の若者が、相手かまわず「ディスラプト」を続けている。どこかで聞いたような話だ。

「バッド・ボーイ」とよぶにふさわしい自身の挑発的な姿勢について聞かれて、モロゾフは「連中は戦うことを好まない、それが問題だ」と答えている。

8.

発展や進歩は、しばしば論争から生まれる。

The Half-life of Facts』で科学的事実さえ時とともに変わっていくことを示した数学者のサミュエル・アーベスマンは、こういっている

科学の授業を教えている教授が、教えたことを反証する論文を授業の翌日に読んだ。次の日授業にやってきた教授はこう言ったという。

「先日教えたことを覚えているか。あれは間違っていた。こういうことがいやなら科学をやめた方がいい」。

ある論証が反証され、それがさらに反証される。議論することから前進していくのが科学の世界であり、進歩でもある。似た者同士の会話から進歩は期待できない。

モロゾフとジョンソンたちのどちらが正しいのか、私にはわからない。

テクノロジーとそのはたらき、それがもたらす未来について、より真剣に考えさせてくれる人たちに、私は耳をかたむけようと思っている。

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