ウォール街よりも、もっと情報の近くへ

ウォール街でオルタナティブ投資のマネジャーに会ったら、オフィスをミッドタウンに移すことになったと言われた。

彼らのオフィスのビルでは、この夏に多くのテナントの賃貸契約が切れる。彼らを含む金融ビジネスの多くは契約を更新せず、ミッドタウンに引っ越すことを決めたそうだ。

ウォール街といえば金融。だが、主要な金融ビジネスはもうウォール街に本社を構えてはいない。2001年にJPモルガン・チェースが本社をミッドタウンに移したのが最後だ。

金融ビジネスの流出が続くウォール街は、もうニューヨークの金融の中心とはいえないようだ。

1.

マンハッタンには多くのヘッジファンドが所在する。ある報告によると、新しく組成するヘッジファンドの9割以上が、マンハッタンでビジネスすることを選んでいる。

コネチカット州のスタンフォードで立ち上げたものの、マンハッタンに引っ越すことを決めたファンドもある。

とりわけミッドタウンに圧倒的に集中している。東西は3番街と7番街、南北は42丁目と62丁目で囲まれたエリアは、ヘッジファンドの「黄金長方形」といわれる。

ヘッジファンドはそのエリアでしかオフィスを構えたがらない。ほかのファンド勢がそこにあるのが大きな理由だ。

ミッドタウンは投資家と会うのにも便利だ。JFK空港から欧州へと帰路を急ぐ投資家たちは、ウォール街まで足をのばそうとはしない。

2.

ヘッジファンド以外の金融ビジネスも、ミッドタウンにシフトしている。

「なぜミッドタウンなのか」と、私はウォール街で会ったマネジャーに聞いてみた。「運用先など同業のカウンターパートの近くにいる必要がある」という。

wallstreet「もっと近くへ」—。だれもがそれを強調する。

この世界では朝食や昼食をとりながらの会合が毎日のようにあり、インフォーマルな情報交換を行う。

どのヘッジファンドがどう動いているのか。今朝の市場を動かしたのは誰なのか。あのファンドのマネジャーが辞めたらしい…。

市場のプレーヤーにとって最も重要な情報はそこで手に入れる。こうした情報は誰もメールで教えてはくれない。毎日のように顔を合わせて会うことが必須の条件だ。

ミッドタウンとウォール街はタクシーでほぼ20分、約6キロの距離だ。だが、近くにいることが大きな差を生む世界では、その物理的、精神的な距離感は致命的になる。

3.

ウォール街を含むロウワー・マンハッタンのインフラの古さも影響している。

2012年10月にニューヨークを襲ったハリケーンは、ウォール街の金融ビジネスに大きな打撃を与えた。停電で数日間ビジネスができないとあっては、まったく話にならない。

比較的新しいオフィスビルが多いミッドタウンへのシフトをさらに後押しした。

トレーダーは真新しいオフィスを好む。古いビルとちがってフロアの真ん中に大きな柱がなく、フロア全体を見渡せるオフィスはトレードに好都合だ。

私がときどき訪れるミッドタウンのヘッジファンドでは、足下までガラス張りの窓からセントラル・パークが一望できる。投資家に強い印象を与えるには眺めも必要なのだ。

4.

歴史的にウォール街に金融ビジネスが集中していたのは、ニューヨーク証券取引所 (NYSE) がウォール街にあるからだ。

nyse証券取引はNYSEのフロアで物理的に行われていたため、ブローカーなどの金融ビジネスはNYSEのそばにいる必要があった。

ウォルター・バジョットの『ロンバード街』は、19世紀のロンドンの金融街の様子をあざやかに伝えている。

ロンドンに電報で伝わったニューヨークの市況を少しでも早く手に入れようと、ブローカーは足の速い者を雇い、自分のオフィスまでメッセージをもって走らせた。

やがて自転車というテクノロジーが人間の足にとってかわった。それから100年以上経ったいま、スピードを競っているのはコンピュータだ。

結局のところ金融は情報をめぐるビジネスだ。やっていることは昔からそんなに変わらない。

NYSEでもフロアレーダーの時代は終わった。トレードはコンピュータで行われている。NYSEの近くにいる必要はない。金融ビジネスがウォール街から離れるのも無理はない。

5.

だが、金融ビジネスが物理的な場所から自由になったわけではない。

NYSEが提供している「コロケーション・サービス」をみてみよう。NYSEは自社のサーバー近くの場所をサーバー・スペースとしてヘッジファンドなどに貸している。

1/1000秒を競うファンドにとって、サーバー間の物理的な距離もトレードのスピードを左右する。NYSEのサーバーに少しでも近いことで、巨額の利益を得ることができる。

「情報に一番近い場所」はNYSEのサーバーの隣だ。そのNYSEのサーバーは、ウォール街ではなく、ハドソン川をはさんだニュー・ジャージー州にある。

今日、金融向けに特化したコロケーションのビジネスは珍しくない。いうまでもなく、その多くはニュー・ジャージー州にある。

情報に少しでも近づきたければ、ウォール街よりもニュー・ジャージー州ということになる。

インターネットやテクノロジーの発展によって、ビジネスは物理的な場所から解放されるという人もいる。

だが、金融ビジネスをみるかぎり、それは依然場所に大きく依存している。むしろ、市場取引の加速と進化が示唆しているのは、「情報の場所への距離」をめぐる終わりのない競争のようにもみえる。

6.

金融ビジネスがロウワー・マンハッタンを離れる一方で、同エリアに引っ越してくるビジネスもある。

カナル通りより南のエリアで新たに締結されるオフィスの賃貸契約の20%以上は、デザイン、テクノロジー、メディア、広告などのビジネスだという。

wtcミッドタウンに比べてオフィスの賃料が安いのが魅力だ。

デイリー・ニュース紙などの大手もロウワー・マンハッタンに引っ越した。コンデナストは建設中のワン・ワールド・トレード・センター (旧称フリーダム・タワー) に入ることが決まっている。

かつてとはちがって、ロウワー・マンハッタンに住む人も増えている。ウォール街ではオフィスから住居に改築した部屋が増えている。

7.

ビジネスの入れ替わりは必ずしも自然に進んでいるわけではない。ロウワー・マンハッタンのオフィスの空室率は、他のエリアよりも高い状態が続いている。

金融ビジネスの流出を目の当たりにして、ニューヨーク市も静観してはいない。

2013年3月に、ニューヨーク市経済開発公社は、ロウワー・マンハッタンで新たにオフィスを構えるか、同エリアでの基盤を拡張するビジネスに補助金を与えた。

審査の結果、革新的とみなされる5社が支度金としてそれぞれ25万ドルを受け取った。ビジネスをロウワー・マンハッタンへと促す試みだ。

金融ビジネスの街だったロウワー・マンハッタンは、かつてないほど多彩な活動の場所に変わりつつある。

もう精肉を扱うことのないミートパッキング地区があるように、金融ビジネスがまばらになったファイナンシャル・ディストリクト (金融街) があってもおかしくはない。

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2 Responses to ウォール街よりも、もっと情報の近くへ

  1. Miwa Susuda says:

    $B:G8e$NDy$a$,!”$J$+$J$+NI$+$C$?$M!#$9(B

    Sent from my iPad

  2. Pingback: 都市というゲームのルール | Follow the accident. Fear the set plan.

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