つながりのはたらき

グーグルに金融危機は救えるか。

グーグルの「ページランク」は、ウェブページの重要性を測るアルゴリズムだ。ほかの重要なページから多くリンクされているのが重要なページだという考えにもとづいている。

同じように、他の金融機関から多くリンクされている金融機関は、金融システム上重要とは考えられないだろうか。

欧州の経済学者と物理学者のグループは「デットランク (DebtRank)」というアルゴリズムを開発し、2012年8月にその研究結果を『ネイチャー』に発表した

1.

金融機関はさまざまな相互取引を通じてつながりあい、金融取引のネットワークをつくっている。

研究者たちが注目したのは、そのネットワーク構造だ。

金融危機の初めの時期 (a) には、金融機関のネットワークは比較的自律した構造を示している。

しかし、金融危機がピークに達する頃 (b) には、つながりの密度が著しく高まり、多くの金融機関が中心に移動している (= デットランクが高まっている)。

ここでいう「中心」は、金融ネットワークにおける相互依存の密度のことだ。金融機関の規模とは必ずしも関係ない。

nature

多くの金融機関の間でリンクの密度が高まり、相互依存が高まるにつれて、そこに内在する「システミック・リスク」は増大し、金融システムは不安定性を増していく。

その結果、ちょっとしたショックでもリンクをたどってシステム全体に波及し、金融危機は簡単に起きるという。

ある金融機関がつぶれると、他の金融機関がつぶれ、また別の金融機関がつぶれる。金融システムの脆弱性は、そのネットワーク構造に依存している。

「大き過ぎてつぶせない (too big to fail)」とよくいわれるが、どうやら「中心的過ぎてつぶせない (too central to fail)」といった方がいいようだ。

2.

アマゾンなどのサイトで、「おすすめ」によって面白い本やCDを見つけたことがある人は多いだろう。

この「レコメンダシステム」は、商品の売れ筋にどう影響しているのだろう。

ペンシルベニア大学の研究者たちの仕事をもとに、あるプログラマがシミュレーションを走らせている

レコメンダシステムのもとでは、あらゆるユーザーから (間接的に) おすすめを受けることになる。ユーザー全員がひとつのコミュニティを構成するのがオンラインの世界だ。

一方オフラインの世界では、自分が直接知っている人からのみ商品の紹介を聞く。そこでは数多くのコミュニティがバラバラに分断されている。

この2つの世界のモデルを走らせると、ユーザーの選択は、オンラインの世界で特定の商品により集中する結果となる。

レコメンダシステムが、知らないユーザー間に相関をつくりだしておすすめするからだ。

「インターネットはより多くの選択肢を提供することができるため、ニッチなものも注目を浴びるチャンスがある」とインターネット論者はいう。

だが、このモデルが示唆するのは、少数の売れているものがより売れて、ニッチなものはより売りづらくなるのがオンラインの世界だ。

おすすめによって知らなかった (すでに売れている) 商品を発見することで、ユーザー個人にはそこに商品の「多様性」があるようにみえるのだという。

ユーザー間のつながりが広がり、コミュニティが統合されていくにしたがって、リンクは特定の商品に集中しやすくなるようだ。

3.

「つながり」をみることで、わかってくることは多い。

つながりの密度が高まり、「すべてがすべてにつながっている」状態になると、システムは不安定になりやすい。

つねに変化を続けるつながりのネットワークを観察できれば、システムの極端なふるまいを防ぐことができるかもしれない。

「デットランク」の目的は、つながりの状態をモニターすることによって、金融危機の予兆を把握することにある。

たとえば税金も、つながりの観点から考えてみることができる。

富の分布は不均衡になりがちだ。リンクを恣意的につけ加えることによって、豊かな人たちから貧しい人たちに富を再分配するのが税金だ。

4.

「つながり」は独創性やイノベーションの源泉でもある。

すぐれたアイデアは天才のひらめきではなく、いろいろな人たちとの意見交換や協業によって生まれる。

数々の独創的な研究を生み出しているサンタフェ研究所で、最もこみあっている場所はコーヒールームだという。

異なる分野の研究者とおしゃべりをすることで、いろいろなアイデアが生まれてくる。

サイバネティックスの創始者として知られるノーバート・ウィーナーは、MITの廊下を歩きまわり、同僚の研究に耳を傾けることで、自分の考えを築いたといわれる。

ニュージャージー州のベル研究所は、20世紀の科学を牽引した。

同研究所内は、多種多様な研究者を、文字通り「ひとつ屋根の下」で一緒に働かせるデザインになっていた。

すぐれたアイデアは、人と人のつながりから生まれる。

スティーブン・ジョンソンの『Where Good Ideas Come From』など、こうした主張をあちこちでみかける。

5.

しかし、最近になって「揺り戻し」とでもいえる指摘も目にするようになってきた。

スーザン・ケインはその著書『Quiet』で、人とおしゃべりしたり、グループで問題にとりくむことと同じぐらい重要なのは、ひとりで考え、作業する時間だという。

協業とひとりでの作業を組み合わせることによって、はじめて仕事は達成できる。つねにだれかとつながっていれば、創造性がひきだされるわけではない。

安易なコラボレーションは「新たなグループシンク (集団浅慮)」に陥りかねないとケインは警告する。

サンタフェ研究所には個室のオフィスがある。コーヒールームで得たインスピレーションを煮詰めるには個室が必要なはずだ。

従業員や部署の間の壁をとりのぞいた「オープン・プラン」のオフィスを導入するビジネスは多い。

従業員間の接触や交流を促進しようという考えのようだ。

しかし、オープン・プランを試した結果、プライバシーの欠如、過剰なノイズの存在などから、オフィス内に壁やパーティションをあらためて設置するビジネスも出てきている。

6.

ニューヨークはつながりの街だ。いろいろなところで人とのつながりができる。

知り合った人との間に共通の友人がいたというのはよくある話だ。この大都市は意外と「せまい世界」らしい。

その「つながりの街」は「ひとり暮らしのメッカ」でもある。

ニューヨーク市に住む約8百万人のうち、1百万人がひとりで住んでいる (singleton) 。マンハッタンでは、世帯数のほぼ半分をひとり暮らしが占める。

「多くの人とつながりながら、ひとりでいる」。それがニューヨーカーのつながりかただ。

米国人の生活形態の変化を『Going Solo』にまとめているニューヨーク大学のエリック・クリンバーグによると、ひとりで住んでいる人ほど、さまざまな社会活動に積極的に参加しているという。

「つながりの密度」と「ひとりでいること」は相反しない。むしろ、密接につながりあっているからこそ、ひとりでいることが必要になる。

ひと晩にいくつものパーティーをハシゴした後に、自分の部屋に戻ってひとりになる。ニューヨークに住む人なら、ひとりでいることの重要性を知っている。

複雑につながりあった「せまい世界」では、リンクを一時的にはずすこともネットワークのバランスを維持する方法だ。

そうすることで、この街に住む人たちも、街のシステムとしても、かろうじて「危機」に陥ることをまぬがれているように私にはみえる。

7.

いろいろな人たちをひとつの場所におしこめばなにかが生まれる。『やわらかな遺伝子』などの著者マット・リドリーは、それを「アイデアのセックス」とよんだ。

それは都市のことにほかならない。このせまいところに雑多なものがひしめきあっているのがニューヨークの強みだ。そこに独自の発酵が生まれる。

つながりは重要だ。だが、もっと重要なのは「つながりかた」だ。

人と人の (そしてビジネスとビジネスの) つながりは、どのような環境で、どんな条件のとき、どのようにはたらくのか。

少しづつわかりつつある「つながりの経済学」が示唆することのひとつは、「つながらないことの効用」だと私は思っている。

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2 Responses to つながりのはたらき

  1. Miwa Susuda says:

    素晴らしい。

  2. Pingback: つながるべきか、つながらざるべきか | Follow the accident. Fear the set plan.

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