ニューヨークはディズニーランドじゃない

観光客のみなさん、ようこそニューヨークへ!

ニューヨークは世界で最もエキサイティングな街です。

刻々と変化を続け、新しいものを生みだし続けるこの街では、一瞬たりとも退屈することはないでしょう。

さて、ニューヨークを楽しむにあたり、皆さんに、お願いしたいことがあります。

歩道では早足で歩いてください。歩道の真ん中では、立ち止まったりしないでください。横一列に並んで歩いたりなど論外です。

ブルックリン橋など、歩行者と自転車の通行路が分かれているところがあります。自転車用のレーンを占領して歩いたり、わが者顔で記念撮影したりするのはやめましょう。

ニューヨーク市には、8百万人が生活しています。観光客のみなさんが利用する歩道は、私たちも毎日の生活に必要なのです。

そのことを、どうかお忘れなく。

それでは、心ゆくまでニューヨークをお楽しみください!

1.

ニューヨーク市には、1年に5千万人が訪れ、470億ドル相当のお金を落としていく。

観光は、ニューヨーク市経済の7%を占める1大産業だ。そして、ニューヨークで最も成長している産業でもある。

しかし、ニューヨークに住む人たちは、観光客が増えることを快く思ってはいない。

観光客を嫌っているわけではない。観光客のふるまいに悩まされているのだ。

2.

ニューヨークは、人びとの歩くスピードが早いことでも知られる街だ。そのニューヨークでは、観光客の足どりはひときわ遅く感じられる。

集団で歩く観光客は、しばしば歩道をふさいでいるため、追い抜くこともできない。よそ見しながら歩くため、ほかの歩行者にぶつかることも多い。

私は、ブロードウェイなど、観光客が多い通りは歩かないことにしている。遠回りになっても迂回をした方が、結果的には短時間で目的地に着くことができる。

(写真はオレゴン州ポートランドのもの)

かつてニューヨークの歩行者用の信号は、「WALK」、「DON’T WALK」と表示されていた。

「WALK」=「青」
「DON’T WALK」=「赤」

ニューヨークでは、「DON’T WALK」は「渡るな」という意味ではない。「走れ」という意味だ。

赤信号で止まって待っていたら、後ろの人から「早く行けよ!」と怒られる。怒られる人は、たいてい観光客だ。

3.

自転車でブルックリン橋を渡り、通勤する人は多い。

橋の上の道は、歩行者用と自転車用に二分されている。

マンハッタンからブルックリンに向かって、右側が歩行者用レーン、左側が自転車用レーンだ。

右の写真で、2人の歩行者が歩いている側が、歩行者用レーンになっている。

だが、そんなことにはおかまいなしの観光客は多い。

橋の上いっぱいに横に広がって歩く観光客たちに、「こっちは自転車のレーンだよ!」と注意しながら走り過ぎる自転車をよく見かける。

その際に、口汚く罵っていく人も多いのは、ニューヨーカーの特徴だ。

猛スピードの自転車にあやうく轢かれそうになって、「オーマイゴッド!」と叫ぶ観光客もいるが、自転車は悪くない。自転車用のレーンをふさいでいる方が悪いのだ。

4.

ニューヨークに住んでいない人たちは、「歩くスピードが多少遅くなっても、そんなに大したことじゃないだろう」と言うかもしれない。

しかし、私たちは、こうしたストレスを、毎日、街のいたるところで経験している。毎年5千万人が訪れる街では、かなり「大したこと」なのだ。

2010年、ロウアー・イースト・サイドや5番街の歩道に、「TOURISTS (観光客)」、「NEW YORKERS (ニューヨーカー)」と書かれた白の文字があらわれた

インプロヴ・エブリウェア (Improv Everywhere)というグループによるものだ。

歩道をニューヨーカーと観光客用に二分すれば、ニューヨーカーは早く歩き、観光客は好きなだけゆっくり歩くことができる。

「ニューヨーカーと観光客は、別々のレーンを利用しろ」というメッセージに共鳴したニューヨーカーは多い。

5.

観光スポットの近くに住む人たちは、無数の観光客に囲まれて暮らさなければならない。

2011年にオープンしたハイラインは、高架貨物線跡を公園にしたものだ。都市開発のモデルとして注目され、すでにニューヨークの主要観光地になっている。

ニューヨーク市は、また1つ観光スポットが増えたことを喜んでいるに違いないが、誰もがハイラインを喜んで受け入れているわけではない。

2012年5月、ハイラインにおしよせる観光客のふるまいに腹を立てた住人が、ハイラインのあるチェルシー地区一帯の電柱に、観光客に向けた張り紙をした

そのメッセージは明快だ。

「ウェスト・チェルシーはタイムズスクエアじゃない」。

ハイラインの近くでは、住人が出入りするアパートの入口に観光客が座りこみ、いたるところで写真を撮っている。

ハイラインを訪れる観光客が、自分の家の前で同じことを四六時中されたらどう思うだろうか。

ハイラインには1年に3百万人が訪れる。自分の住むところに3百万人の観光客が押しかけてくるのだ。

気がついたら、住んでいるところがディズニーランドになっていたようなものだ。

6.

ニューヨークの観光重視が加速したのは、ブルームバーグ市長が就任してからだ。

ニューヨークには数多くの観光資源がある。「ニューヨーク」という地名自体が、ある特定のイメージをもつ、ひとつのブランドとさえいっていい。

NYC & カンパニー (NYC & Company) は、マーケティングとPRを行う非営利の組織だ。

NYC & カンパニーのユニークな点は、顧客がひとつしかないこと。その唯一の顧客はニューヨーク市だ。

NYC & カンパニーのミッションは、ニューヨーク市の良いイメージを世界中に伝え、同市への観光客の増加を図ること。

日本を含む世界中の拠点から、「ニューヨークを売り込む」べく、日夜活動を続けている。

近年の観光ニーズは多様化している。

かつては危険で観光客が近寄ることもできなかったハーレムは、いまでは人気の観光スポットだ。多くの観光客は、五番街よりもブルックリンのウィリアムズバーグを目指している。

こうしたニーズに行き届いた情報を提供するのが彼らの仕事だ。

NYC & カンパニーは、2012年までに、ニューヨーク市の訪問者数を5千万人にすることを目標としていたが、2011年にはその目標を達成してしまった。

とくに、海外 (米国外) からの訪問者数の伸びが顕著だ。日本からの観光客も多い。

2010年時点では、日本からの訪問者数は約30万人で14位。ニューヨークを訪れる人が最も多いのは英国で、1百万人が同市を訪れる。

日本で本屋に行くと、なんらかの雑誌が必ずニューヨークの特集を組んでいる。そうした雑誌をみかけるたびに、そこにNYC & カンパニーの影を見ずにはいられない。

7.

ニューヨークを訪れる人の数は顕著に増加し、ニューヨークで落とすお金も増えている。

2008年の金融危機後も、ニューヨークがそれほど大きく落ち込まなかった背景には、底堅い観光産業があったことは認めなければならない。

ニューヨークの「成功例」を目の当たりにして、ロンドンやシカゴは後を追って、同様の観光政策に着手した。

どうやらニューヨークの観光政策は大成功のようだが、ニューヨークに住む人たちは、ニューヨーク市 (政府) ほど、観光客を喜んではいない。

ニューヨーク市には、人が住んでいる。ハイラインの近くには、そこで生活している人たちがいる。私たちは見せ物の一部ではない。

8.

観光客を敬遠することは、ニューヨーカーの必要条件だ。ニューヨーカーであるためには、観光客が行くところに足を運んではいけない。

タイムズスクエアや自由の女神、エンパイア・ステート・ビルディングには、ニューヨークに住む人は行かない。

ニューヨークに住む多少気のきいた人なら、観光客が多いレストランをディナーの場所に指定するようなことはしない。

いい感じのバーやエリアに観光客が現れはじめると、それは「悪い兆候」だ。その場所の「賞味期間」はもう長くはない。

実は、NYC & カンパニーの設立当初の目的のひとつは、観光客を嫌うニューヨーカーが多いため、「観光客に優しいニューヨーク」のイメージを広めることだった。

NYC & カンパニーの成功によって、ニューヨーカーがいっそう観光客を敬遠するようになったのは皮肉というべきだろうか。

9.

ニューヨークにとって、観光はかつてないほど重要な産業になった。同市の経済に占める観光の貢献度 (7%) は、過去最高の水準に達している。

ニューヨークだけではない。世界中の都市が、訪問者を増やすことに取り組んでいる。

「人が集まる魅力的な都市」—。近年の都市研究では、都市そのものがもつ魅力をいかに引き出すかが課題になっている。

都市を訪れる人の数は、「人をひきよせる都市」としての、ひとつの具体的な指標ではある。

だが、観光客が増えることによって、お金を落とすこと以外にその都市に貢献することはあるのだろうか。観光から、「次の新しいもの」が生まれてくる可能性はあるのだろうか。

私はそのことの方が大きな課題だと思っている。

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One Response to ニューヨークはディズニーランドじゃない

  1. ys347 says:

    米国Travel+Leisure誌の調査によると、米国の主要35都市のなかで、訪問客に対して最も優しくないの都市 (rudest city) にニューヨークが選ばれている。

    America’s Rudest Cities (Travel+Leisure)

    http://www.travelandleisure.com/articles/americas-rudest-cities

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