都市のアルゴリズム

バーやギャラリーで、友人にばったり出くわすことがある。そんなとき、「偶然だね」と人はいう。

だが、それは偶然ではない。

指向性が近い「似た者同士」は、同じようなところに顔を出すものだ。

バーでもレストランでもいい。ある店に通う人たちが、別の特定の店にもよく顔を出すとすれば、その2つの店の間には類似性があるはずだ。

ゲイバーを考えてみよう。ゲイバーには自明の共通点がある。

似た者同士をひきよせるのは、セクシャリティだけではない。よく似た職種の人たちや、同じ民族の人たちが集まる場所もあるだろう。

「あなたはどんな人なのか」—。それは、あなたが顔を出す場所によって規定することができる。

1.

カーネギーメロン大学の研究プロジェクトLivehoods (リブフッズ) は、場所の関係性を探る試みだ。

ソーシャルメディアのFoursquare (フォースクエア) のユーザーがチェックインした、1千8百万件のデータを解析して、ニューヨークやサンフランシスコなどの地図上にマッピングしている。

リブフッズは、レストランやバーの間の距離を示すものだ。

その距離は、物理的な距離ではない。「ソーシャルな距離」だ。

データを可視化することによって、目には見えない「ソーシャルな」パターンが明らかになってくる。

上のニューヨークのマッピングの例を見れば、そうしたパターンは明らかだ。同じところで遊ぶ人たちには共通点があり、特徴がある。

もっとも、ニューヨークに住んでいる人なら、「あらためて言われなくても、そんなことは誰でも知っている」と言うだろう。

ニューヨークは、細分化されたいくつもの「クラスター」からなる都市だ。

ダウンタウンのどの地区にはどんなバーがあり、どんな人が集まるのか。ここに住む私たちは、それを直感的に嗅ぎ分けて、日々生活している。

2.

私の友人セス・スピールマンは、コロラド大学で地理学を教えながら、都市を構成する「近隣地区 (neighborhood)」の性質を研究している。

米国では、同じ地区には、似た者同士が住んでいることが多い。たとえば、チャイナタウンは民族的なクラスターの1例だ。金持ちが集中して住む地区もある。

米国は定期的に国勢調査を実施しており、都市内の特定の地域の、人口、住民の年齢構成、所得、人種、出生国などを、年代毎に把握することができる。

スピールマンは、オルバニー、バッファロー、シンシナティ、ニューアークの4都市について、国勢調査データを19世紀までさかのぼって、近隣地区の解析をした。

そして、それぞれの地区の住民の特徴をマッピングしている。マイノリティの人種が圧倒的に多く住むところもあれば、高所得者が多い地区もある。

3.

スピールマンとリブフッズの試みは、よく似ている。どちらも、人の動きが形成するパターンを明らかにするものだ。しかし、相違点もある。

リブフッズは、ソーシャルメディアのユーザーによる限定的なデータにもとづいている。1千8百万件はデータ数として多くはない。

スピールマンの研究は、国勢調査という「高精度データ (high-resolution data)」を利用している。

住民ひとりひとりの社会的、経済的特徴が、特定の住所にジオコーディングされたデータを解析することで、より精緻な研究が可能だ。

4.

スピールマンは、米国国立科学財団 (NSF) から研究費用を得て、新しいプロジェクトにとりかかろうとしている。

19世紀の過去のデータだけではなく、現在に至る膨大なデータ集合を解析し、都市における近隣地区の動態を解明するものだ。

最終的には、どこにどんな人が住んでいるのか、あらゆる地区の住民の特徴を予測できるようにするという。

「どこにどんな人が住んでいるか」—。それは、住民の選択の結果のはずだ。私たち個人の好みや判断を予想することなど、本当に可能なのだろうか。

しかし、個人の自由な行動の結果が、都市全体としては、一定のパターンに従うとしたらどうだろう。

都市に蓄積されるミクロなデータを解析すると、都市のマクロなレベルでは、あるパターンや法則が立ち現れてくることが多い。

5.

幾何学では、部分と全体が自己相似になるフラクタルとよばれる概念がある。

てっとり早くフラクタルのイメージを伝えるのにふさわしいジョークがある。

フラクタルの父といわれる数学者ブノワ・マンデルブロの名前の表記は「Benoit B. Mandelbrot」だ。

ミドルネームの「B.」には、実は、もうひとつ「Benoit B. Mandelbrot」が隠されているという。さらにその中の「B.」には「Benoit B. Mandelbrot」が、そしてさらに…。

スピールマンによると、それと似たパターンが、都市の近隣地区の人口統計データに潜んでいるという。

6.

たとえば、金持ちが多い地区を考えてみよう。住民の多くは高所得者だ。だが、その地区のなかでは、高所得者の間でも所得差がある。

ズームアウトして、もう少し広い地域をみてみよう。そうすると、より大きな所得の差があらわれる。さらにズームアウトすると、そこでは、さらに大きな所得の差がみられる。

「地区間の差」は、「地区内の差」よりも大きい。

この法則を究明することによって、限定的なデータ集合から、より広い地区や都市全体の特徴を推定することができる。それがスピールマンの仮説だ。

7.

スピールマンの目標は、「都市の構造」を解明することだ。

「都市の構造」は、地下鉄などのインフラや、ゾーニングのような規制のことではない。目には見えないが、都市を貫くパターンや法則のことだ。

そうしたパターンや法則に従って立ち現れる、特定の「ふるまい」こそが、私たちが「都市」と呼んでいるものだ。ビル群が都市なのではない。

サンタフェ研究所のジェフリー・ウェストは、都市に通底する普遍的な物理法則を発見したという。一定の法則に収斂する、普遍的な「都市のふるまい」があると彼は主張する。

ニューヨークと東京は違う。ウェストによれば、その「違い」とは、普遍的な都市の法則からどれだけ乖離しているのかということにすぎない。

8.

「都市はプラットフォームだ」—。そう耳にすることが増えてきた。

材料 (人材など) を集めて、多様性や寛容性など、特定の条件を満たす都市に投入すれば、そこに驚くべきアウトプットが生み出される。

都市をコンピューティング環境と同じように考えようというわけだ。

バーチャルな都市を運営するシムシティは、そうしたシミュレーションのゲームだ。

それに対して、スピールマンは、リアルな都市のシミュレーションを行っている。

過去の実際のデータを用いて、数千のオートマトンからなる都市モデルを構築し、19世紀の都市が再現するように、オートマトンをトレーニングする。

学習の結果、オートマトンは、実在した都市を生成することができるようになる。そのうえで、様々なパラメータを変更することで、シミュレーションを行うことができる。

「もしもクレオパトラの鼻がもっと低かったら、歴史はどう変わっていただろうか」という問いがある。

答えは簡単だ。歴史を再現してシミュレーションしてみればいい。少なくとも都市の歴史に、「もしも」は可能だ。

9.

こうした研究には、まだ課題も多い。

ニューヨーク市の人口は1千万人近い。数十万人の人口の都市とは違って、個人間の相互作用から生まれる「ふるまい」は、極端に複雑になる。

大都市の住民は多様なため、人種や所得などのプロフィールの階層も多くなる。

その結果、大都市のシミュレーションを行うと、その「ふるまい」が複雑になりすぎて、何が起こっているのか全くわからなくなってしまうと、スピールマンは言う。

都市を理解するカギは、都市そのものが生み出すパターンや法則を把握することにある。これまでの都市研究は、建造物など、物理的な側面に偏りすぎていた。

「都市のアルゴリズム」の探索は、これからの都市の考え方において、中心的な役割を果たすことになるはずだ。

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4 Responses to 都市のアルゴリズム

  1. ys347 says:

    世界各地の地下鉄網は、それぞれの歴史などの違いにもかかわらず、一定のパターンに収斂することが伝えられている。

    World’s Subways Converging on Ideal Form
    http://www.wired.com/wiredscience/2012/05/subway-convergence/

  2. Pingback: 市場のふるまい、都市のふるまい | Follow the accident. Fear the set plan.

  3. Pingback: ビッグ・データにできること、できないこと | Follow the accident. Fear the set plan.

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