マネジメントの終わり?

「産業革命は、機械化の普及によって雇用を減らした」—。

しばしばそう考えられている。だが、産業革命によって雇用は減らなかった。むしろ増えたのだという。「マネジャー」の仕事が生まれたためだ。

それを教えてくれたのは、長谷川徹だ。

長谷川は、ニューヨークのデザイン会社Proxyを主宰するプログラマーだ。コロンビア大学の建築大学院で、パラメトリック・デザインを教えている。

プログラマーでありながら、多岐にわたる視点をもちあわせている長谷川は、教育からビジネスまで、様々な話をすることができる友人の1人だ。

マネジメントの終わり?

米国では組織は重視されない。私たちはそう考えがちだ。だが、組織を何よりも重要視することが規範的だった時代もあった。

組織のなかの人間』は、1950年代半ばに出版された、ウィリアム・ホワイトのベストセラーだ。「オーガニゼーション・マン」とは、文字通り「組織人」のことだ。

こうした「組織の時代」においては、マネジャーこそがビジネスエリートの進むべき道だった。

MBAのニーズが高まったのも無理はない。職を得るためにはMBAが必須とさえ言われた。マネジメントがビジネスのコアだったのだ。

だが、今日、大企業のような組織はもはや規範的モデルとはいえない。スタートアップ・ビジネスの隆盛が示すように、より小さく、フラットな組織へのシフトが進んでいる。

マネジメントという「間接的な」仕事を、最小限におさえる方向性に進んでいるとも言えるだろう。

そして、コンピュータによって、そうした仕事はさらに減ることになるだろうと、長谷川は言う。

マネジメントは、企業の管理職だけのことではない。いわゆる「プロフェッショナル」の仕事もマネジメントだ。

そうしたマネジメントの終わりが加速するのはこれからなのだ。

投資はアルゴリズムが主役に

投資は、コンピュータが先導する分野の1つだ。

金融市場、とくに為替市場では、市場取引の半分近くを「アルゴリズム取引」が占めている。

アルゴリズム取引とは、アルゴリズムに基づいて、コンピュータが売買の判断を下し、市場で取引を自動的に繰り返すシステム取引だ。

コンピュータが瞬時に「考え」、取引するため、人間には何が起こっているのかわからないことが多い。

2010年5月6日、ダウ平均株価がわずか数分間で1000ポイント近く暴落した。

SEC (証券取引委員会) は、「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれる株価の乱高下の調査にとりかかったが、瞬時の暴落を分析し、理解するのに、半年近くの時間を要した。

非公開企業への投資は、公開企業株の売買とは異なる独自の作業と判断を伴う。だが、長谷川と話したところ、そうした投資判断もアルゴリズム化することは可能のようだ。

専門家は不要になる

米国民と米国に住む外国人は、毎年納税申告書をそれぞれ提出することが義務づけられている。

かつては多くの人が、面倒な申告手続をCPA (公認会計士) に依頼していた。

現在では、納税申告のソフトウェアが数十ドルで手に入る。質問に答えていくだけで、納税申告書が作成できるうえ、オンラインで申告手続まで終えることができる。

現在もCPAに納税申告を依頼しているのは、よほど複雑な取引をしている人たちだけだろう。もっとも、そうした複雑な取引も、近い将来、コンピュータがCPAにとってかわる可能性が高い。

マーケットブリーフ (MarketBrief) は、2011年8月に立ち上がったばかりのスタートアップだ。

1日に10万ページにもおよぶSECが公表する企業の各種財務報告書を、独自のプログラムに基づいて解析し、自動的に簡潔なレポートにまとめるサービスの提供を始めた。

膨大な量の技術的な書類を、短時間で、誰にでも読める平易な言葉のレポートにするところに価値がある。

ナラティブ・サイエンス (Narrative Science) は、ニュース記事を自動生成するスタートアップだ。

スポーツから経済指標まで、あらゆる種類のデータを入力すると、記事を自動的に作成する。人工知能の研究者が始めたビジネスだけあって、記事の完成度は高いと評判だ。

逆風が吹き荒れる米国のジャーナリズムの世界で、ついにジャーナリストもお払い箱になってしまうのかと議論を呼んでいる。

拡張現実の世界へ

このように、専門家 (プロフェッショナル) の必要性が少なくなってきているのは明らかだ。

アルゴリズムや人工知能の発達によって、不定形で、より複雑な意思決定がコンピュータに可能になってきている。コンピュータは、「ルーティン作業の自動化」のためのツールではない。

拡張現実 (Augmented Reality: AR) の本格化は、そこまでやってきている。もはやSFの世界ではない。

かつては人間にしかできないと考えられていた、専門的で高度に複雑な仕事を、アルゴリズムが請け負うようになっている。

その結果、かつてマネジメントと呼ばれた「頭脳労働」の大部分が危機にさられることになるだろう。

産業革命時には、機械化の普及による失職をおそれる労働者が、機械を打ち壊すラッダイト運動を起こした。

今世紀にラッダイト運動が起こるとすれば、それを先導するのはマネジャーやプロフェッショナルに違いない。

高等教育は雇用を保証しない?

こうした動向は、多方面に影響を与えざるをえない。たとえば、教育の問題だ。

米国では、より高い学位を取得していると、より良い(=より高給の) 仕事にありつけると信じられている。実際に、教育水準と所得の間には、高い相関関係が報告されている。

しかし、これからもこうした関係が続くかどうかはわからない。

マネジャーやプロフェッショナルの仕事をコンピュータが代替するようになると、高度に専門的な知識を身につけたところで、仕事の保証があるわけではない。

CPA、弁護士、そして金融は、「プロフェッショナル・サービス」として、ビジネスの中心的な役割を果たしてきたが、これからもその必要性が正当化できるのだろうか。

今日、大学院を卒業したプロフェッショナルの失業率が高止まりしていると言われる。不況による一過性のものではなく、構造的な変化の進行によるものだと指摘する人もいる。

拡張現実が私たちの生活に行きわたるとき、人は一体なにをすればいいのだろうか。

そんな話をして、その夜は長谷川と別れた。

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One Response to マネジメントの終わり?

  1. ys347 says:

    デジタル化が促進する経済の変容について、ブライアン・アーサーがマッキンゼーに寄稿している。「The Second Economy」

    https://www.mckinseyquarterly.com/The_second_economy_2853

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