次のバブル崩壊は教育ローンか

「米国の学生は、一体どうやって学費を払っているのか?」

日本に住む友人が聞いてきた。

子供の将来的な留学を考え始めた彼は、米国の大学で必要とされる学費や生活費を調べてみたようだ。ところが、そのコストは予想以上だったらしい。

そこで、米国の家庭は、どうやって教育資金を捻出しているのか聞いてきたというわけだ。

学部生で1年に4万ドル以上の教育費が必要

米国の大学は授業料が高い。いわゆる有名私立校になると、授業料は著しく高くなる。

あるレポートによると、私立の4年制に通う学部生が1年に必要とする教育費用は、平均で4万ドル (うち授業料は2.7万ドル) を超えているという。公立の4年制の学部生では、平均2.7万ドル (うち授業料は7-8千ドル) だ。

大学院の授業料は学部よりも高くなる。さらに、MBA、ロースクール、建築などの「プロフェッショナル・スクール」になると、その授業料はいっそう高くなりがちだ。

2年間のMBA留学のためには1千5百万円ほどの資金が必要だと日本では言われているようだが、それは控えめな見積もりではないだろうか。

高騰を続ける大学の授業料

米国の学費は高いだけではない。毎年どんどん高くなり続けている。

2001年度から2011年度の10年間で、大学の授業料は年率5.6% (インフレ調整後) の上昇を続けた。その結果、10年前と比べて、授業料は2倍以上の水準に達した。

その高騰ぶりは、他の主要な物価の上昇率を大きく上回っている (「Tuition and fees」が授業料に相当)。

Source: Moody’s

私は10年前に私立の大学院を卒業したが、当時でさえ高いと思っていた授業料がすでに2倍にもなっているとは信じがたい。

授業料の高騰ぶりは落ち着く気配がない。しかし、大学には行きたい。そうした望みを満たしてくれる大学もなくはない。

マンハッタンのダウンタウンにあるクーパー・ユ二オンは、授業料なしで4年制のプログラムを提供している。

そのため、毎年入学希望者が殺到する。ニューヨークで入学するのが最も難しいのは、コロンビア大学でもニューヨーク大学でもなく、クーパー・ユニオンだと言われる。

もっとも、クーパー・ユニオンは、コストが魅力的なだけの学校ではない。錚々たる講師陣が教鞭をとる有名校であることを付け加えておきたい。

教育ローンは学生自身が借りる

クーパー・ユニオンのような学校に入学できない大多数の学生は、教育ローンを借りて大学に行くことになる。

日本で教育ローンと呼ばれるものは、親が子供の学費のために借りるもののようだが、米国では、学生本人がローンを借りる。

米国では、ある時点を境にして、子供に自立を強いる家庭が多い。高校を出たら、家を追い出すという親も少なくない。大学も「行きたければ自分で行け」ということなのだろうか。

日本の大学生に比べて、米国の大学生は学校をサボったりしないと言われる。それは事実だ。

といっても、米国人がとりわけ勤勉だというわけではない。借金して大学に行った学生にとって、授業をサボるのは「損」なのだ。

米国の大学では、学校のプログラムに満足できない場合には、生徒は堂々と変更を申し入れる。生徒が教師を評価するシステムもあり、評判の悪い教師は解雇されることもある。

おカネがかかっていると、学ぶ方も真剣だ。

教育ローン需要は不況期にも高まる

授業料が高騰を続けていることから、ローン需要も増加の一途だ。

2011年8月に発表されたムーディーズのレポートによると、金融危機以後も教育ローンの貸出残高は増え続けている。

教育ローンは不況によって需要が落ち込むこともない。むしろ、不況になると学生は増える。

雇用状況が悪化しているときに、満足できない仕事に就くよりは、不況時には学校に戻り、あらためてトレーニングを受けることを選ぶ人は多い。

学位や資格を得た頃には、景気も回復しているだろうというわけだ。

経済学の博士号をもつ私の友人は、2008年の金融危機後に、勤務する金融機関が大幅な合理化を実行したことで職を失った。

退職金を授業料に投じてコンピュータ・プログラミングを学んだ彼は、現在は別の金融機関で働いている。新しいスキルを得て、競争力を増して労働市場に戻ったのだ。

生き残っていくためには、サラリーマンにも継続的はトレーニングが欠かせない。生涯学習は不可欠だ。

教育ローンは証券市場の一部

米国の教育ローンは、その規模が800億ドルを超えると言われる大きな市場だ。

高騰教育を受けたいと望む者の大多数が、多かれ少なかれローンに依存することになる。市場の裾野は広い。

金融危機以降も、その増加率こそいくらか低下したものの、新規ローンの貸出額は依然増加を続けている。

高等教育に該当する年齢層 (16-29才) の人口が増えていることに加え、授業料が高騰している。また、営利目的の学校に通う学生が過去10年で3倍に増加している。

その結果、教育ローン市場は、過去10年間で約10倍にも拡大したと言われる。

学生にローンを貸し出すのは、政府だけではない。多くの民間金融機関が、学生を相手に独自にローンを実施している。

そして、教育ローンは証券化され、資産担保証券 (ABS) として流通している。

住宅ローンなどと並んで、教育ローンのABSは、証券取引の流通市場 (二次市場) を構成する主要商品のひとつだ。

高等教育は投資

大学や大学院への進学は投資だ。

高い授業料にもかかわらず、ロースクールやMBAなどのプロフェッショナル・スクールに行く者が後を絶たない。

卒業後に高収入の「プロフェッショナル」としてのキャリアが待っていると考えるからだ。

定期的に米国の教育の状況を報告するレポートの最新版『Education Pays 2010』は、学位と収入の相関関係を示している。

それによると、たとえば、プロフェッショナル・スクールの学位取得者は、平均10万ドルの収入を得ているとしている。

10万ドルの収入が得られるとすれば、20万ドルのローンを借りて学校に通っても、投資効率としては悪くない。

借金をしても、学位を取得して、より収入の多い仕事がみつかれば、投資としてペイすることになる。

教育ローンはもうひとつのサブプライムか?

「仕事がみつかれば」—。

教育ローンはすべてがそこに賭けられている。

住宅ローンやクレジットカードなどの消費者ローンは、返済可能性をみきわめるために、所得水準など応募者の財務状況を審査し、また、なんらかの資産を担保するのが普通だ。

しかし、教育ローンには、その返済可能性を正当化するものがない。より高い教育を受ければ、より高い所得を得るだろうという「期待」にもとづいて、ローンは実行される。

教育ローンは、実質的に誰にでも貸し出し可能であり、しかも他の消費者ローンと比べて金利が低いときている。本来的に投機的な市場だ。

「高い学位を取得すれば、高収入が得られる」という考えは、いくつもの前提から成り立っている。

まず、学生は、プログラムを修了し、学位を取得しなければならない。しかし、さまざまな理由により、学位を取得することなく学校を去る学生は多い。

学位を取得しても仕事が見つからないことも多い。現在の不況下では、このケースが多くみられる。

こうした「期待」の前提が1つでも崩れると、教育ローンを返済することはできなくなる。実際、2008年以降に新規実施された教育ローンは、支払滞納率が高まっているという。

住宅価格は金融危機以降調整段階に入ったが、授業料はいまもなお上昇を続けている。

住宅ローンなど他の消費者ローンは、金融危機以降、新規のローン実施を大幅に縮小した。それによって、支払滞納率は急速に改善した。しかし、教育ローンは、その貸出姿勢、貸出可否の決定基準を変えていない。

ここにサブプライムと同様の問題をみることは簡単だ。教育ローン市場は、バブル末期の様相を呈しているとの懸念が、一部ではささやかれている。

バブルははじけたからバブル

教育ローン市場の急成長は、高等教育を希望する者にチャンスを与えるという社会的な理念が支えているのも事実だ。

しかし、バブルの真っただ中にいるときには、そうした良い面しか目に入らないことを忘れないでおこう。いざバブルがはじけると、「善意」はたちまち「明らかな兆候」や「行き過ぎた無謀な取引」がとってかわる。

「なぜこんなデタラメが横行したのか」—。もっともらしくそう論じられることも多いが、そうした問いは、バブルがはじけた後にしか出てこない。

デタラメが横行したからバブルになったのではない。バブルに終わったからその取引はデタラメとみなされるようになったのだ。

教育ローン市場が破綻すると、市場は一気に縮小し、多くの人が進学をあきらめざるを得なくなるだろう。

私は奨学金の支援を得て、日本の大学を出た。第三者の資金支援がなければ大学を卒業することができなかったかもしれない者として、教育ローンの必要性は個人的にも理解しているつもりだ。

米国の経済は、「知識経済」へのシフトが加速している。単純労働の仕事はどんどん消滅している。

そうした変化に適応していくためには、教育やトレーニングが、これからよりいっそう重要になると考えられている。そのためにも、教育ローンは不可欠だ。

同じバブルだとしても、破綻したときには、教育ローンは住宅ローンよりも、より長期的で、いっそう深刻な影響を与えることになるだろう。

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2 Responses to 次のバブル崩壊は教育ローンか

  1. ys347 says:

    10月31日付のニューヨークタイムズ紙によると、クーパー・ユニオンは、学部生から授業料を徴収することを検討しているという。
    最終決定はされていないものの、1世紀以上にわたって続いた同校の方針が変更になる可能性がある。
    同紙によると、同校には、入学志願者のわずか5-10%が入学を許可されているという。

    http://www.nytimes.com/2011/11/01/education/cooper-union-may-charge-tuition-to-undergraduates.html?_r=1&smid=tw-nytimes&seid=auto

  2. Pingback: 才能のポートフォリオ | Follow the accident. Fear the set plan.

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