「綿密なプランよりも、まずはとにかくやってみよう」

スタートアップビジネスは、面白いアイデアや独自のサービスとともに誕生すると言われる。

だが、いざビジネスを始めてみると、面白いと思ったアイデアは、実はそれほど面白くないことがわかってくる。独自なはずのサービスは、意外にありきたりなものだった。

「独創的なアイデアだと思っていても、同じようなビジネスでベンチャーキャピタルに話をしているところがほかに3社はあると思った方がいい」

スタートアップの世界ではよく言われることだ。

独創的でもなく、それほど優れてもいないことがわかったビジネスモデルは、変更するしかない。

実のところ、見直しを何度も経て、創業当初のアイデアとは異なるビジネスに落ち着くスタートアップは多い。むしろ、当初のアイデアを継続しているビジネスはまれだ。

そして、皮肉なことに、成功が訪れるのは、当初のビジネスから遠くかけ離れてしまったときが多いようだ。

良いアイデアは徐々につくり出すもの

グルーポンは、様々な目標の達成のために人を集めるための「ザ・ポイント  (ThePoint)」というウェブサイトから始まっている。

現在の、割引クーポンの共同購入というビジネスとは異なるものだ。

9ヶ月前に写真加工、共有アプリをリリースしたときには、ユーザー数がわずか80人だったインスタグラム (Instagram) は、現在5百万人を超えるユーザーを有する急成長ぶりだ。

そのインスタグラムは、HTML5をサポートするロケーションベースのサービスのビジネスとして始まった。

「人類が使うすべての情報を集め整理する」ことを謳うグーグルだが、その一番最初の目標は、オンラインでのライブラリー検索を優先順位づけるというささやかなものだった。

成功するスタートアップは、完成された、優れたアイデアとともに生まれるのではない。多くのアイデアを試すことで、良いアイデアに「していく」のだ。

試行錯誤を繰り返すうちに、ビジネスの領域が当初考えていたものから大きく逸脱し、後に企業名を変更することになるケースも珍しくない。

スタートアップはカイゼン

思いついたアイデアが、どうやらそれほど大したものではなかった。しかし、落胆することはない。これから良いものにしていけばいい。

重要なのは、最初のアイデアよりも、ニーズを模索し、適応していくことだ。そのためには、さっさと製品をリリースするのが一番だ。

ベータ版をとにかく早くリリースして、顧客のフィードバックを集め、その結果に応じてコードを書き換える。あらためてリリースし、フィードバックを集め、再びコードを書き換える。

ニッチを探しあてるまで、このプロセスを繰り返す。今日のインターネット系のスタートアップは、一日に何度もコードを書き換えてリリースを繰り返している。

起業家のエリック・リーズが、「リーン・スタートアップ (lean startup)」と名付けたやり方だ。

英語で「リーン・マニュファクチャリング (lean manufacturing)」と呼ばれる日本の生産方式 (=カイゼン) から着想を得たものだ。日本語では「カイゼン・スタートアップ」とでも呼ぶべきだろうか。

環境変化が早く、製品やサービスの陳腐化が早いテクノロジー系スタートアップにとっては、理にかなったやり方だ。

アイデアやプランを入念に練り上げるよりも、製品をリリースして市場のなかで学習し、適応化を模索する方が効率的なのだ。

変化の早いビジネス環境では、練りに練ったプランが完成する頃には市場は一変し、そのプランはもう使いものにならなくなっているだろう。

予測できないから、やってみよう

「綿密なプランよりも、まずはとにかくやってみよう」—。

こうした考え方は、テクノロジー系スタートアップに特有のものではない。より広い文脈で、こうしたアプローチへの傾斜がみられる。

あらゆることを見通したうえで、予測や計画を立てることができると考えるのは、単線的な合理主義がもたらす誤謬にほかならない。

たとえば、あるひとつの製品を市場に投入したとしよう。その結果を予測することはほぼ不可能だと言っていい。

製品が市場に影響を与えるだけでなく、そのことによって起こった市場の変化が製品にフィードバックされる。半ば無限のフィードバックループが形成される。

こうした非線形の相互作用を「簡単な」モデルにしたとして、世界中にあるスーパーコンピュータをかき集めても、その演算にははかり知れない年月が必要になるだろう。

自分はそれ以上に頭がいいと思っている人は別にして、できもしない合理主義的な予測をするよりは、製品やサービスを実際にリリースしてみたうえで、何が起こるかを観察する「次善の策」を選ぶ方がよっぽど合理的というものだ。

ありあわせのもので始めるのが起業家

「ビッグ・アイデア (big idea)」—。英語では、野心的で壮大なプランのことを指し、その実行可能性については疑わしいニュアンスを伴う言葉だ。

生物学は言うまでもなく、経済学やビジネスの現場、そしてプランをつくるのが使命である政府においてさえ、合理主義的な計画への懐疑を経て、漸進的な「進化的」アプローチへとシフトが進んでいる。

長期的な予想を含む壮大なプランを練り上げて、その実行のために必要な資源をあらかじめそろえようとするのではなく、いま手元にあるありあわせのもので、まずは始めてみる。それがスタートアップの流儀だ。

米国ではよく知られている起業家に関する論文がある。

ワシントン大学のサラ・サラスバティによる『What makes entrepreneurs entrepreneurial (なにが起業家を起業家的にしているのか?)』という論文だ。

その論文は、起業家を料理人にたとえている。

つくる料理のメニューをあらかじめ与えられ、その詳細なレシピも、食材もすべてそろっている。それではじめて料理を始めることができる料理人がいる。

他方、いま手元にある食材から、どんな新しい料理をつくれるのかを考え始める料理人もいる。後者が起業家と呼ばれる人たちだ。

サラスバティは、MBAで教えていることは、前者の料理人の環境を前提にしていると言う。だが、実際の世の中は、後者のような環境が常態なのだ。

「Follow the accident. Fear the set plan. (出来上がったプランは忌避して、偶発性をおいかけよう)」

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