ハッカーは世界を救う

ハッカーによる攻撃が相次いでいる。

ソニー、任天堂、シティバンクなどの企業をはじめ、米国中央情報局 (CIA) のコンピュータシステム、米国政府高官のGmailアカウントへの不正アクセスが報告されている。

エスカレートする攻撃に対して、各国当局はハッキングの封じ込めに動いている。

米国は「サイバー攻撃は戦争行為」との見解を打ち出し、不正アクセスの監視を強める意向だ。

「ハッカーが米国の原子炉、地下鉄、パイプラインなどに重大な脅威をもたらすという状況」には、軍事力で対応する可能性もあるという。

情報社会は管理社会か?

コリイ・ドクトロウの『リトル・ブラザー』 (2008年) は、いたずら好きな高校生ハッカーのマーカスが主人公の小説だ。

ある日サンフランシスコのベイブリッジが爆弾テロで爆破されたことで、すべてが一変する。

「まずい時にまずい場所にいただけ」のマーカスは、テロリストから国土の安全を守ることをミッションとする国土安全保障省 (DHS) により拉致される。

ベイエリアの島に監禁され拷問を受けた後、どうにか生きて戻ったマーカスがみたサンフランシスコは、DHSの監視がはびこる街になっていた。

いたるところに設置された監視カメラは、不審な行動を24時間モニターしている。デビットカードの利用記録から、電車の乗車履歴、すべての自動車の位置情報は随時記録される。

大量のデータを集めたうえで、統計的な平均から逸脱した行動をとる人は、ただちに尋問を受け、連行されるだろう。

米国ではフェイスブックに新たに追加された顔認識機能が議論を呼んでいるが、一歩先を行くこの小説では、歩行認識で個人を特定する。マーカスは、靴に石を入れて、不自然な歩き方をすることで監視をのがれようとした。

人びとの行動がデータ化される社会では、監視や追跡が容易になる。

そのことを最もよく知っていたのは、オサマ・ビンラディンだろう。米国諜報機関の手をのがれるため、彼の隠れ家にはインターネットがなかった。

メッセージを保存したフラッシュメモリを信頼できるメッセンジャーに託し、メッセンジャーがインターネットカフェからeメールを送受信していた。

国土安全保障省にテロを防ぐことはできない

「DHSの監視は、テロ防止のために市民が払うべき犠牲だ。警官から尋問を受けるなど、やっかいなこともあるが、世の中は安全になる」。

マーカスはそうは考えなかった。彼はDHSのシステムをハックして、その監視機能を混乱に陥れた。

DHSの人物追跡は妨害できるし、飛行機の「搭乗拒否リスト」も回避可能だとマーカスは宣言する。巨額を投じたDHSのシステムも、優等生でもない高校生にハッキングにできる。

「監視によってテロを防ぐことはできない」。それが、マーカスがハッキングで示してみせたことだ。

さらには、DHSのテロ対策活動を監視し、彼らの職権濫用を告発する草の根の運動に火をつけた。

ジョージ・オーウェルの『1984年』では、「偉大な兄弟 (ビッグ・ブラザーズ)」が監視の目を光らせていた。政府を相手に自由を求めて戦うハッカーたちは、ちっぽけな「リトル・ブラザーズ」だ。

マーカスのネット上でのハンドルネームは「wln5t0n (=winston)」。『1984年』の主人公ウィンストン・スミスと同じであることもつけ加えておこう。

テロリストとは誰のことか?

DHSのシステムをハックするマーカスはテロリストなのか。

テロ後の政府は、人びとの自由を奪い、反対意見を述べる人を裏切者に仕立てあげている。テロの目的が怖がらせることであれば、DHSこそテロリストだ。マーカスはそう考える。

マーカスの教師が、1960年代の公民権運動や学生のデモ活動など、当時のカウンターカルチャーについて話していたときのことだ。

教師の話を聞いていた生徒のチャールズは、たまりかねて反対意見をのべる。「世の中を混乱させたり、法律を破ったりするのは、やつら(テロリスト)の行為だ」。

カウンターカルチャーにコミットしたのは敵対国の工作員ではない。米国人だ。そうした米国人はテロリストなのか。チャールズの答えは明快だ。

「やつらとぼくたちを見分けるのなんて簡単じゃないですか。アメリカを支持してくれればぼくたちだ。アメリカ人を撃ってるやつらを支持してるなら、そいつらはやつらですよ」

米国ではおなじみの論理だ。

クリントン国務長官は、外交政策において、インターネットを熱心に喧伝している。2010年1月には、「インターネットの自由」と題する演説を行った。

同時に、同国務長官は、米国の外交文書を大量に公開したウィキリークスをアルカイダと同じだと断定し、徹底的に糾弾する。

その一方では、米国は、権威主義国家に住む活動家に、国家の監視を逃れるツールを提供しようとしている

独裁者がインターネットを強制的にシャットダウンした場合にそなえて、ポータブルなインターネットのキットを、イランやシリアなどに支給する予定だという。

何がテロリストで、何が自由なのか。クリントン国務長官に、チャールズの論理をみることは難しくない。

テクノロジーの両義性

ドクトロウは、テクノロジーの普及によって、人びとの行動が監視されるようになることに警鐘を鳴らしてきた。

テクノロジーの両義性といえば、エフゲニー・モロゾフを忘れてはならない。

知己の間柄であるドクトロウとモロゾフは、ともに、テクノロジーは中立的ではなく、監視など副産物をもたらしうることを指摘する。

情報を集めて追跡するのは政府だけではない。

私たちがウェブやソーシャルメディアを利用するたびに、グーグルやフェイスブックなど、特定の巨大企業に大量のデータが蓄積する。

フェイスブックの会員数は、7億5千万人を超えた。会員の友人関係や嗜好に関する膨大なデータは、26歳のCEOの手中にある。

17歳のハッカーが攻撃したのは、情報が特定の企業や政府だけに集中し、彼らの目的だけに利用されることに対してだ。

真の自由と権利を求めて

作家であり、ブロガーであり、ブログサイト「Boing Boing」の共同編集者でもある、肩書きの多いドクトロウは、なによりも「活動家」として自分を定義する。

そして、技術的な知識に裏打ちされた、独自の自由主義論を展開している。

ドクトロウは、デジタルメディアの共有を可能にするため、著作権法の自由化を提唱する。デジタル社会の自由な言論の権利を守る非営利組織、電子フロンティア財団の欧州コーディネーターも務めていた。

ドクトロウが主張するのは、徹底的にオープンな自由だ。米国的なご都合主義的な「自由主義」ではない。

実際、自由を主張するのは決して楽ではない。

欲しい音楽ファイルがあるときに、「自由」を提唱するのは簡単だ。だが、テロ攻撃を受けながら、「自由」を主張してセキュリティ強化に反対することができる人はどれだけいるだろう。

そして、自由が脅かされるときには、政府を相手にしても戦わなければならない。独立宣言を引用し、それが「自由の国」米国を信じることだとマーカスは言う。

「政府は、統治される人々の合意に由来する正当な権力にもとづいて、人民のうちに樹立される。いかなる形態であれ、政府がこの目標に反するようになったとき、人民は、政府を改め、または廃してあらたな政府を樹立し、もっとも安全と幸福をもたらしてくれそうな原理をよりどころとし、もっとも安全と幸福をもたらしてくれそうな形で権力を組織する権利を有する。」
  

6月25日、一連のハッキングに関与しているとみられるハッカー集団のラルズ・セキュリティーは、攻撃を当面停止することを声明で伝えた。しかし、他のハッカーたちには、ウェブや政府への攻撃を続けることを奨励した。

オーウェルの誕生日にあたる日のことだった。

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