「財政優遇で企業誘致」の時代は終わった

ニューヨークタイムズ紙によると、UBS銀行がオフィスをマンハッタンに移すことを検討している

同行は、1996年にその北米本社を、マンハッタンからコネチカット州のスタンフォード市に移転した。

世界最大のトレーディングルーム (写真) が建設され、金融の中心地はニューヨーク市からコネチカット州に移ってしまったようだった。

そして15年後の2011年—。

同行は、数千人規模におよぶ投資銀行部門とトレーダーを、再びマンハッタンに移転することを考えているという。

税制優遇措置を連発した1990年代

ニューヨーク市が財政破綻した1980年代には、多くの企業が同市を後にした。

世界の金融の中心を標榜するニューヨークは、金融機関の流出を阻止しようとして、税制優遇や補助金など、巨額の財政優遇策をアドホックに与えた。

金融機関は税収源として魅力的だ。近隣の州も競うように税制優遇策をくり出し、1990年代を通じて、金融機関の誘致合戦が繰り広げられた。

ウォール街の象徴であるニューヨーク証券取引所 (NYSE) までも、ニュージャージー州への移転を検討していると伝えられたことがある。

NYSEが「ニュージャージー証券取引所」になってしまうのではないかと懸念されたが、 NYSEはウォール街に残ることを選んだ。

もちろん、ニューヨーク市から巨額の優遇措置を受け取ったうえでのことだ。

UBS銀行も、優遇措置の恩恵を受けた金融機関の一つだ。

コネチカット州は、1990年代初めから2年もの歳月をかけてUBS銀行と交渉を続けた結果、1億2千万ドル相当の優遇措置を同行に与えることにした。

現在、同行がスタンフォード市に所在しているのは、その結果だ。

企業の立地は、利益の最大化を目的として決定される。多国籍企業は、低廉なコストを探し求めて国境を超える。金融機関も同様だ。

「ビジネスを行うコスト」が企業の場所を決定するとすれば、誘致を希望する自治体が、その「コスト」を軽減すべく、優遇措置を繰り広げるのも当然だ。

UBSがマンハッタンに戻る理由は?

では、UBS銀行が再びマンハッタンに戻ることを検討しているのはなぜか。

同行によると、スタンフォード市では、才能豊かなプロフェッショナルを雇用することが難しいという。コネチカット州に多くの金融機関が移転した現在も、金融関係者の多くはニューヨーク市内にいる。

スタンフォード市のオフィスで働くUBS銀行の従業員のなかにも、マンハッタンに住み、毎日1時間近くかけてスタンフォード市まで電車で通勤している者が多い。

もう一つの理由は、顧客や弁護士など協業者の近くにいる必要があるためだ。

スタンフォード市とマンハッタンの間の距離は約35マイル (約50キロ)。金融関係者を乗せたリムジンが日夜往復している。

それでも十分ではなく、再びマンハッタンにオフィスを構えることを考えているというわけだ。

「スペースよりも知識」

今日の経済は、「知識経済」への移行が加速している。「知識生産」のためには、「知識」が集中する場所にいる必要がある。

そうしたビジネスにとっては、広々としたオフィスよりも、知識の集中度がなによりも重要だ。

プロフェッショナルが集まる都市は、さらに多くのプロフェッショナルを呼びよせる。その結果、その街はより「賢く」なる。「集積の経済」の顕著な例だ。

インターネットなどのコミュニケーションツールの発展などによって、離れた場所で働くことが可能になると言われる。実際には、さらなる「集中」が進展している。

こうした経済下では、ビジネスの所在地や、人が住むところを決定するのは、コストではない。

特定のビジネスにとっては、コストは高くても、マンハッタンにオフィスを構えた方がより効果的だ。

そこに住むことによって得られる大きな恩恵を期待できる人は、高い生活費にもかかわらずニューヨーク市に住むことを選ぶのだ。

コスト競争のコモディティ・トラップ

コネチカット州は、金融機関を誘致することに成功した。だが、金融都市としての、知識やイノベーションの蓄積がそこに生まれたとは言いがたい。

UBS銀行がマンハッタンへ戻った後、そこに何も残らなかったとすれば、スタンフォード市は廉価で場所を貸しただけだったことになる。

もちろん、同行の移転が決まったわけではない。1996年にコネチカット州が交付した財政優遇措置が2015年に失効するため、それを前にして、移転先を探り始めるのは当然だ。

優遇策を有利に交渉するために、金融機関が移転の「ブラフ」をかけるのはよくあることだ。コストが無視できない要因であることは間違いないだろう。

だが、コスト競争は差別化ができない。コストを下げ続ける「コモディティ・トラップ」に陥りがちだ。

変容する都市経済と「経済政策」の考え方

ここ数十年の間に、都市経済のあり方は大きく変わった。「経済政策」の考え方も、根本的に見直す必要がある。

都市の競争力を決定するのは、知識や才能の「集中度」だ。それは、財政優遇策では対処することはできない。「ゲームのルール」はもはやコストではない。

これまでのところ、UBS銀行を誘致するために、ニューヨーク市が税制など特別な優遇措置を検討しているとは伝えられていない。

ニューヨーク市は、「優遇措置合戦」から一線を画しているようだ。また、かつての金融依存とは違い、今日のニューヨークは、金融機関に対して一定の距離をおいているようにもみえる。

ニューヨーク市の副市長ロバート・スティールは、ニューヨーク市が目指すのは、「人々が住みたい、いたいと思う街」だと言う。

人やビジネスが離れていくのは、その都市自体に競争力や魅力がないからだ。コストや誘致政策の問題ではない。

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One Response to 「財政優遇で企業誘致」の時代は終わった

  1. ys347 says:

    人口減少に悩むニューヨーク州ナイアガラ・フォールズは、卒業後に当地に残るか、あるいは近くの別の市から引っ越してきた人に対して、彼らが負う学生ローンの一部を肩代わりする方針だ。

    財政補助を出して企業誘致を行う政策と同じように考えられるだろうか。

    Can Niagara Falls Grow Again? (Atlantic Cities)
    http://www.theatlanticcities.com/jobs-and-economy/2012/06/can-niagara-falls-grow-again/2257/

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