資本主義の主役を降りる株式市場

米国資本主義の象徴がドイツに買収される—。

2011年2月、ドイツ取引所によるニューヨーク証券取引所 (NYSE) の買収案が浮上したとき、そうささやかれた。

NYSEをはじめとする株式市場は、長年にわたり「米国資本主義の象徴」というにふさわしい役割を果たしてきた。

NYSEのような取引所で自社の株が取引されることは憧れであり、取引開始のあのベルを鳴らすことを、誰もが夢見たのだ。

過大な上場負担

しかし、近年では、上場が必ずしも重要視されないばかりか、上場を敬遠する企業も増えている。

上場を維持するためには、監査など多額の付随コストが発生するからだ。

後を断たない粉飾事件と規制強化のイタチごっこの結果、SOX法 (サーベンス・オクスリー法) など、コンプライアンス (法令遵守)  に費やさなければならないコストや労力も途方もなく大きい。

「コンプライアンスやIR (インベスター・リレーションズ) のためにビジネスをしているわけではない」。

膨れ上がる「上場負担」にうんざりして、プライベート化(上場廃止)を選ぶ企業も多い。

急成長する未公開株市場と低迷するIPO

かつては市場で売買できる株式は上場企業のものに限られていた。しかし、未公開企業の株式取引が急速に活発化している。

ニューヨークに拠点をおくセカンドマーケット (SecondMarket) は、未公開企業の株式など、通常は流動性に欠ける資産を売買するプラットフォームを提供する会社だ。未公開のフェイスブックの株式取引でも注目を集めた。

創業者でありCEOを務めるバリー・シルバートは、「流動性のない資産のためのeBay」を標榜する。会社設立時には、社名を「Private Company Stock Exchange」(未公開企業証券取引所) にしようと考えていたという。

同社が2010年に取引した未公開株は40社、4億ドル相当。2011年には10億ドルに達する見込みだ。

セカンドマーケットによる取引額を含む、今年の米国での未公開株の取引総額は、70億ドルとも予想されている。

米国では、毎年約3千社のスタートアップ企業が、ベンチャーキャピタル (VC) の投資を受ける。そこに流動性が与えられれば、もはや「ニッチ市場」とは言えない市場規模になる。

未公開企業の株式取引が急増している背景には、ベンチャー企業の多くがIPO(株式公開)を望まなくなったことがある。

全米ベンチャーキャピタル協会 (National Venture Capital Association) によると、VCの投資を受けてIPOを達成した企業の数は、1999年には271社だったが、2010年には72社へと大きく落ち込んだ。

Source: SecondMarket

上場がビジネスの運営に足かせとなり、未公開の株式が売買できるとなれば、IPOを望まない企業が増えるのも当然だ。

上場は、もはやすべての企業が目指すべき道ではなく、唯一の退出方法でもない。

IPOの低迷と上場廃止、上場企業間の合併が相まって、過去10年間、米国の上場企業数は減り続けている。現在の上場企業数は、1990年代後半と比べて、約40%も減少している。

スタートアップの資金調達の多様化

ファイナンスの教科書には、上場の利点は資金調達だと書かれている。そろそろ教科書を書き直した方がいいだろう。

米国では、ビジネスの主役は、大企業から、より多くの中小企業へとシフトしている。テクノロジービジネスがいい例だ。

日本のメディアをみていると、米国には、アップルとグーグル、それにマイクロソフトしか存在しないかのようだ(どうやら最近、そこにフェイスブックも追加されたらしい)。

しかし、実際には、実に多種多様な企業が競争をくりひろげており、その圧倒的大多数はスタートアップなど中小企業だ。

そして、資金調達を渇望しているのは、そうした未上場の中小企業なのだ。アップルやグーグルの資金繰りなど心配する必要すらない。

スタートアップへの投資としては、VCが知られているが、最近では、不特定多数の個人がマイクロビジネスに投資できる仕組みも増えている。

33ニーズ (33needs) は、今年の2月にスタートしたばかりのビジネスだ。

同社のプラットフォームを通じて、資金を必要とするビジネスに個人が少額の投資をすることができる。

キックスターター  (Kickstarter) と少し似ているが、キックスターターが寄付であるのに対して、33ニーズは投資だ。また、33ニーズは、プロジェクトではなく、会社への投資となることなどが異なる。

米国で投資を受けるには、「PPM (Private Placement Memorandum)」と呼ばれる目論見書を証券取引委員会 (SEC) にファイルすることが求められる。

そのファイリングの煩雑さのために、少額になりがちな中小企業への投資は、実質的に不可能な状態だ。

33ニーズの創業者でありCEOのジョシュ・テトリックは、投資家が売上の一部をシェアする仕組みにすることで、SECが指定するPPM対象になることを避け、容易に「投資」を行うことができるようにした。

テトリックによると、同社はいわゆる「エンジェル投資」のためのものではない。他の方法では投資がつかないような、ユニークなアイデアをビジネス化させるのが目的だという。

アイデアそのものへの投資

今日のビジネスを牽引するのは「アイデア」だ。アイデアの面白さと、それをビジネスとして実行するスピードがカギとなる。

そうであれば、アイデア自体を取引するビジネスが出てくるのも不思議ではない。最も議論を呼んでいるのは、インテレクチュアル・ベンチャーズ (Intellectual Ventures) だろう。

同社は「発明の資本市場」を築くことを標榜し、発明自体を売買するファンドだ。脚光を浴びることが少ない研究が、それ自体で利益の出るものになるようにするのが目的だという。

もはや資本は、アイデアがビジネスになるまで待ってもくれないようだ。

Investment for everybody?

NYSEをはじめとする株式市場は、依然米国経済の大きな部分を占めている。だが、今日の経済のフロンティアを反映していない。株式市場は大企業のためのものだ。

未公開企業の株式取引や、より柔軟な資金調達方法も増えている。いずれも、市場を利用した「流動化」指向と、「新たな資本市場」の試みだ。

取引の対象も、「完成体」としての企業から、プロジェクト、アイデア、発明などの「バラ売り」への傾斜が進んでいる。

伝統的な株式市場の意義は形骸化しつつある。米国資本主義の主役を降りる時が近づいているようだ。

投資の方法も多様化している。富裕層やVCではない、大勢の一般個人から少額の金額を募る方法は、「クラウドファンディング」とも呼ばれる。

米国では、投資信託などを通じて、株式投資が国民に広く浸透したことが、「金融民主主義」と歓迎された。

エリートや資本家の手中にあった投資が、一般市民にも解放された。投資と資産の所有が自由意志の表現ともみなされたのだ。

より多くの投資家をとりこむことが可能になるクラウドファンディングは、こうした「金融民主主義」をいっそう推し進めるだろう。

「— for everybody (みんなのための—)」。「— for people (人々のための—)」。

今日、巷にはこうしたキャッチコピーがあふれている。

権力をもつ誰かが決めるのではなく、一人一人が、自分で望むことを決める。自分をコントロールするのはこの私だ。

米国人に特有の反権威感情に訴えかける甘美なマニフェストだが、より多くの個人の自発的な市場参加の背後には、何よりも、終わりのない増殖を続ける資本の要請があることを忘れないでおこう。

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