才能をひきよせる魅力的な街とは

「こんなことはありえない」—。

ニューヨークのブルームバーグ市長は、あからさまな不信感を隠そうともせずそう言った。

2011年3月に発表された国勢調査によると、2010年時点のニューヨーク市の人口は8,175,133人。過去最高の人口を記録したが、2000年からの増加率は2.1%にとどまった。

調査結果に納得できない同市長は、調査の方法に問題があったはずだとして、ニューヨーク市の人口の数え直しを求める意向だ。

人口は都市の人気投票

ニューヨーク市は、過去にも国勢調査のやり直しを求めたことがある。

1990年の調査結果に異議を唱え、同市は訴訟も起こした(その結果、当初の調査結果が有効という判決が出された)。

人口統計の結果をめぐって、なぜ、訴訟まで起こすのか。

米国では、人口に比例して、下院議員の議席数と連邦政府からの補助金の配分額が決定される。それが、ひとつの理由だ。

だが、ニューヨークのような街にとって、人口統計はより大きな意味がある。

今日の経済では、多くの人が、より良い仕事や生活環境を求めて、住む場所を選び、移動する。生まれ育った場所で生涯を過ごす人は少ない。

より良い街を求めて、人々が移動を繰り返す社会において、人口はいわば人気投票の結果だ。その街がどれだけ魅力的なのかを、端的につきつける。

ニューヨークは、世界中から人が集まり、だれもが目指す街だ。人口の低迷など、あってはならないのだ。

才能の集中がもたらす成長

社会学者のリチャード・フロリダは、イノベーションなど、今日の経済を牽引するのは「才能の集中」だと主張する。

多様な背景や経験をもつ才能豊かな人々が、接触を繰り返すことで、新しいアイデアやビジネスが生まれる。集中するだけでなく、才能ある人々が結びつくことが重要なのだ。

成功しているニューヨークのファッションデザイナーには、有能なパートナーがついている。デザイナーとは考えが異なるビジネス指向のパートナーと協業することによって、互いに学び、より良い結果が得られるのだ。

投資もひとつのパートナーの形態だ。

投資家の役割は、有望なビジネスに必要な資金を提供することだ。だが、スタートアップのビジネスにとって、経験を積んだ投資家のアドバイスは、資金と同様に有意義なサポートとなる。

多くの音楽家がひしめき合うニューヨークでは、よほど有名でもないかぎり、自分の音楽だけで食べていくことは難しい。

彼らは、互いのグループに所属し合い、それぞれの音楽活動を支え合っている。そうすることで、自分の音楽活動を続けることができるのだ。

「なぜニューヨークのような競争の激しいところでやっているのか」。

私自身、そう聞かれることがある。その質問の裏には、プレーヤーが少ない街の方が、成功しやすいはずだという考えがあるようだ。

才能が多く集まれば、自ずと競争が生まれる。だが、熾烈な競争と背中合わせにあるのは、豊富なネットワークと協業の可能性だ。才能が集中しているからこそ、チャンスが生まれる。

「プレーヤーが増えれば、それだけ環境が厳しくなる」。そうした線形性は、「集積の経済」にはあてはまらない。

コスト競争で才能は集まらない

「ここは、伝説が生まれ、夢がかなう街だ」—。

人口統計が発表された後、ブルックリンのボロウ・プレジデント、マーティ・マルコヴィッツは、ニューヨークのイメージを取り戻すように言った。

無名の者が、ニューヨークで成功を遂げるエピソードは、数えきれないほどある。そうした数々の伝説が、多くの人をこの街にひきつけ、さらなる伝説を生み出すことになる。

このような街のイメージ自体が、ニューヨークの大きな資産だ。ブルームバーグ市長はじめ、同市の関係者は、そのことを心得ており、徹底的に利用する術を知っている。

だからこそ、人口統計も無視することはできない。才能をひきつけることが都市の競争力を形成するとすれば、魅力に欠ける都市に将来はない。

これまで、ビジネスの誘致策といえば、財政措置が中心だった。独自の税制優遇策を採用しているデラウェア州には、多くのビジネスが、登記の上で所在している。

ニューヨークも例外ではない。「より望ましい産業」を取り込むために、金融機関など、特定のビジネスに税制優遇策を与えてきた。

しかし、「イノベーション都市」を目指す今日のニューヨークが求めているのは、才能ある人たちだ。

「物価が安く、税金が安ければ、人が集まる」。才能をひきよせるためには、こうした従来のコスト指向のインセンティブは機能しないだろう。

「魅力的な都市」とは何だろうか。それを、根本的に考え直してみる時がきている。

Advertisements
This entry was posted in ニューヨーク, パターン, ロケーション, 移動, 米国, 経済, 都市 and tagged , , , , , , , , , , , , , , , , , , . Bookmark the permalink.

3 Responses to 才能をひきよせる魅力的な街とは

  1. ys347 says:

    米国国勢調査局によると、2011年7月1日までの15ヶ月の間、ニューヨーク市の人口は0.6%増加したと推測される。
    この成長率は、同期間における米国のどの都市よりも高いものであり、ニューヨーク市の人口は再び高い成長を示す可能性をうかがわせている。

    New York Led Country in Population Growth Since 2010 Census (New York Times)
    http://cityroom.blogs.nytimes.com/2012/06/28/new-york-led-country-in-population-growth-since-2010-census/

  2. ys347 says:

    米国国勢調査局によると、昨年1年間の人口成長率は都市部が郊外を上回っている。

    近年の経済環境から、住宅を買う人が減っているという一時的な要因と同時に、都市の中心部に住むことを選ぶ人が増えていることも指摘されている。

    Big U.S. Cities Growing Faster than Suburbs (Time)
    http://www.time.com/time/nation/article/0,8599,2118256,00.html?xid=rss-mostpopular

  3. ys347 says:

    先日伝えられた人口成長率に関して(上記コメント)、都市部が成長しているのは、国勢調査の統計上の操作によるものであり、都市部で本当に人口が増加しているのかだどうかは明らかではないという指摘がある。

    Misreferencing Misoverestimated Population (Nullspace)
    http://nullspace2.blogspot.com/2012/06/misreferencing-misoverestimated.html

Leave a Reply

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out / Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out / Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out / Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out / Change )

Connecting to %s