人はなぜ都市に集まるのか

飛行機に乗るときは、通路側の席と決めている。

例外は、ニューヨークのラガーディア空港に着くフライトだ。窓側に座ると、運が良ければ、手が届きそうなところにマンハッタンを見下ろすことができる。

高層ビルの合間を走りぬけるタクシー。遅刻間際の学生が地下鉄の駅に駆け込めば、5番街の店を次々とショッピングする人がいる。

ニューヨーク市には約1千万人が住み、年間5千万人近くが訪れる。その1人1人が全く違うことを考え、別々の目的を追い求めて、勝手気ままに、日夜市内をかけめぐる。

ひとつの街としてかろうじて機能していることが、奇跡のように思えてならない。そして、ある疑問がわきあがってくる。

都市とは一体何だろうか。

「ゾウの時間 ネズミの時間」

サンタフェ研究所のジェフリー・ウェストにとって、都市は物理法則だ。あらゆる都市を貫くパターンを、ウェストは発見した。

だが、まずは、ゾウとネズミから始めよう。

生物学者の本川達雄は、ベストセラーとなった『ゾウの時間 ネズミの時間』で、ゾウにはゾウの時間が、ネズミにはネズミの時間が流れていると主張した。

一生の間に心臓が打つ総数や、体重あたりの総エネルギー使用量は、動物のサイズにかかわらず同じだ。しかし、成長に必要な時間や、一生の長さは動物によって大きく異なる。

本川は、動物のサイズと時間の関係に注目し、体重が2倍になると、その動物の時間は1.2倍「ゆっくりと流れる」ことを明らかにした。

体の大きなゾウよりも、小さなネズミの方が、成長が早く、その一生は短い。ゾウよりネズミの方が、「生きていくペース」が早いことになる。

これは、サイズが大きくなるにつれて、動物のエネルギー代謝率が低下するためだ。ネズミよりもゾウの方が、代謝率は低くなる。直感的にのみこみやすい話しだ。

都市の時間

物理学者のウェストは、同様の研究を、都市について行った。

そして、2007年に発表した論文で、サイズが大きくなるにつれて、都市の代謝率は「高まる」という驚くべき結果を発表した。

動物とは対照的に、サイズが大きくなるほど、都市の生産性はますます高まり、より一層イノベーションを生み出すのだ。

都市のサイズが2倍になれば、1人あたりの所得、創出する富、特許の数、教育/研究機関の数などが、約15%ずつ (平均的に) 増加する。

都市の「生きていくペース」は、サイズが2倍になると、15%早くなる。

非線形の増幅作用が働く都市は、「スーパーリニア・スケール」と呼ばれる、動物のそれをはるかに超える動態をもたらす。

物理的な「集積」と「密度」が生産性を高めることは、「集積の経済」として知られている。これまでもっぱら「エピソード」として説明されてきた仮説を、ウェストはデータを用いて実証したことになる。

ITからファッションにいたるビジネスや、新しいカルチャーを、次々と生み出すのは都市だ。イノベーションが、特定の大都市に集中しているようにみえるのには、理由があったのだ。

都市は人を引きつけ、人を賢くする

ビルの合間を走りぬけるタクシーに、地下鉄に乗りこむ学生、ショッピングに急ぐ人たち—。

こうした人々を観察しても、都市は見えない。都市を理解するには、「都市自体」を観察しなければならない。

ショッピングに向かう人は、気が変わり、家にひきかえすかもしれない。今日ニューヨークを訪れる予定だった私の同僚は、家族の急病のためにニューヨーク行きをキャンセルした。

都市にとって、そんなことはどうでもいい。あなたが何を考え、何をしようが、都市はそれ自体で息づき、一定の法則に従って成長する。

「都市は生き物だ」—。そう言うとき、それは喩えではない。都市は固有のリズムをもつ、ひとつの自律した組織体だ。そして、われわれはその一部なのだ。

都市のサイズが2倍になれば、その (平均) 所得は15%増加する。言い換えれば、小さな街にいるある人が、2倍の大きさの街に行けば、彼(女)の所得は15%増えることになる。

都市には移民をはじめ、多くの人々が流れこんでくる。彼らは「スーパーリニア」など聞いたこともないだろう。しかし、そうした都市の法則を、嗅ぎつけて集まってくるのだ。

都市は、人をひきつけ、人と人を結びつける。人々が集まり、出会い、気まぐれな会話から新しいアイデアが生まれる。都市は、様々な「接触」を生み出し続けるネットワークだ。

人が都市をつくるのではない。都市が人をつくるのだ。

独自のテクノロジー論を展開するケヴィン・ケリーは、テクノロジーが自律的な「主体」だと主張する。

ケリーによれば、自らの生き残りと成長を求めて、自身の維持管理、そして再生を繰り返すのがテクノロジーだ。

「都市はテクノロジーだ」とケリーが述べるのは、決して偶然ではない (『What Technology Wants』)。

もっと高く、もっと密度を

ウェストの発見によって、都市の見る目は根本的な修正を迫られる。

ハーバード大学のエコノミスト、エドワード・グレイサーが展開する議論は、明らかにウェストの発見を踏襲している。

都市における人々の「接触」に注目したのは、ジェーン・ジェイコブスだ。彼女によれば、人々が接触を繰り返すことで、予想もできないようなふるまいが立ち現れる「創発」の場こそが都市だ

グレイサーは、ジェイコブスの考えを賞賛しつつも、彼女が高層ビルの建設に反対したのは過ちだったと批判する。

ジェイコブスが住んでいたウェスト・ヴィレッジの美しい低層の建物を擁護するのは、感傷主義にすぎない。住居数を増やさないかぎり、住居価格は高騰する。

密度を高めれば、都市の生産性は高まる。規制やゾーニングを見直し、高層住宅をどんどん増やすべきだ。物価が不当に高いだけの「ブティック都市」に、人は集まらない。

密度の高い都市こそグリーン

ウェストの発見によると、都市のサイズが大きくなるにつれて、エネルギー効率も向上する。都市のサイズが2倍になっても、そこで必要とされる資源は85%しか増加しない。

エネルギー効率の悪い郊外の一軒家に住み、車を運転するよりも、都市の集合住宅に住み、公共交通機関で移動をする方が環境にとって好ましい。

緑あふれる郊外よりも、コンクリートに囲まれた都市の生活の方がサステイナブルなのだ。 徹底的に密度の高い都市こそが「グリーン」だと、グレイサーは主張する。

エコを楽しむことと、エコに貢献することを、とり違えてはいけない。

都市の潜在力を引き出すために、都市化を極限まで追求しようとするグレイサーは、徹底したアーバニストだ。

彼の新著のタイトルが示唆するように (『Triumph of The City』)、グレイサーは、都市の「勝利宣言」をつきつける。

2008年には、地球上の人間の半分以上が都市部に住むに至った。都市人口が加速するのはこれからだ。

そのとき、都市はその力をいよいよ発揮する。

追記: ウェストは、都市のスーパーリニア・スケールを発見した後、企業について同様の研究を行っている。興味深いその途中経過を含む、Jonah Lehrerによる記事がニューヨークタイムズマガジンに掲載されている。
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5 Responses to 人はなぜ都市に集まるのか

  1. ys347 says:

    Scientific American誌が都市の特集号を出している。ジェフリー・ウェスト、エドワード・グレイサーなどの論考に加え、ウィリアム・ギブスンの寄稿もある。

    http://www.scientificamerican.com/cities/

  2. Pingback: マンハッタンは持続可能な理想モデル | Follow the accident. Fear the set plan.

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