インターネットは権威主義体制も救う

2009年6月。イランで、大統領選挙の結果に抗議するデモが広がった。

デモの組織化に、ツイッターが大きな役割を果たしたと報じられ、「ツイッター革命」ともてはやされた。2010年12月、チュニジアの「ジャスミン革命」においても、同様のことが伝えられた。

「長年続いた独裁体制が、ツイッターやフェイスブックによって崩壊している。自由な情報交換が可能なインターネットこそ、民主化の切り札だ。」

こうした論調に、舌鋒鋭く、論戦を挑んでいるのは、新進の論客エフゲニー・モロゾフだ。

「ツイッター革命」に反論

ベラルーシ生まれのモロゾフは、今年の1月初めに、初の著書『Net Delusion: The Dark Side of Internet Freedom』を出版した。

そして、1月25日には、エジプトで大規模な反政府デモが発生。申し分ないタイミングのデビューだ。

インターネット論者の多くは、独裁国家で反政府運動が多発するさまを、「テクノロジーの勝利」と賞賛する。

それに対して、モロゾフは、民主化の原動力を、インターネットや携帯電話などのテクノロジーに還元する見方を、「サイバー空想家 (サイバー・ユートピアン)」と呼んで、切り捨てる。

旧ソ連圏での活動から得た経験と幅広い知識をもとに、インターネット論者たちに公然と挑みかかるモロゾフは、米国を中心として、大きな論争を呼んでいる。

テクノロジーの弁証法

1984年』—。ジョージ・オーウェルが描いた独裁国家では、「偉大な兄弟」が、言論から私生活における一挙一動までをコントロールした。

だが、「2011年」の権威主義国家は、より狡猾で、ともすると「権威主義的」にはみえない方法で体制の温存を図る。インターネットも不可欠のツールだ。

たとえば、権威主義政府にとって、反体制分子は危険な存在だ。注意して監視する必要がある。こうした「危険人物」を調べあげるのに、フェイスブックは強い味方だ。

かつては仲間を吐かせるには拷問にかけるしかなかったが、今日のKGB(ベラルーシでは共産体制崩壊後もKGBが存在する)はフェイスブックに行けばいい。時間と労力を大幅に節約できる。

プロパガンダを広めるのに、ブログほど便利なものはない。ロシアには、ブロガーの養成学校さえあるという。

ベネズエラのチャベス大統領がツイッターのユーザーであることは、よく知られている。2月初めの時点で、約120万人のフォロワーがいる。チャベス大統領は、ツイッターを彼の「秘密兵器」だと言ってはばからない。

ロシア政府は、インターネットへのアクセスを、原則として制限しない。そして、オンラインで娯楽番組を提供するサイト「Russia.ru」をサポートしている。

権威主義国家の国民にとって、最大の関心事は政治ではない。米国と同じように、ダイエットや恋愛、それにポップカルチャーだ。

情報をオープンにすることで、国民の目は非政治的なものに向く。検閲するよりも、検閲なしで「コントロール」した方が好都合なのだ。

ツイッターがイランの反政府運動の状況を伝えたことは誰もが知っている。デモが組織されてしばらく後、マイケル・ジャクソンが死亡した。たちまちツイッターがマイケル・ジャクソン一色にとってかわったことは、あまり知られていない。

情報がオープンになるのは、必ずしも「民主化」の兆しではない。体制が世論を巧みにコントロールし、行動を監視するための手段にすぎない。

今日の権威主義政府は(おそらく北朝鮮を除いて)、情報へのアクセスを開放した方が有利であることも、インターネットやソーシャルメディアを利用する術も心得ている。

インターネットは、それ自体で、「本来的に」、自由を促進するものではない。民主化の役にも立つ一方で、体制の温存にも寄与する。インターネットを利用するのは、抑圧された国民だけではないのだ。

モロゾフがつきつけるのは、こうした「テクノロジーの弁証法」だ。

「サイバー空想家」からの転向

かつては、モロゾフ自身、インターネットが民主化をもたらすと信じる、「サイバー空想家」だったという。

祖国ベラルーシの状況悪化を憂慮したモロゾフは、NGOにとびこみ、インターネットを利用した旧ソ連圏の民主化運動にコミットした。

だが、同地域の政府が、より洗練された検閲の手法を学び、インターネットをはじめとするメディアを、積極的に利用し始めていることに気づいた。

一方、米国を中心に、「自由化」の道具としてのインターネット信仰が広まった。そして、インターネットを軸とした民主化プロジェクトが発足し、そこに米国からの救済資金が流れこんだ。

その結果、潤沢な資金を得たNGOプロジェクトが、権威主義体制の維持のために機能するさまを目の当たりにしたモロゾフは、インターネットについて、ナイーブな見方を捨てることを迫られたという。

旧共産圏の状況を目撃したモロゾフにとって、米国のインターネット論者は、いかにも現実味に欠ける「空想家」に見えたに違いない。

「インターネットのチアリーダー」とも称される彼らの議論を目にしたことのある者は、そのトーンが独特の高揚感に満ちていることに気づくはずだ。苦汁をなめたモロゾフの、冷徹な眼差しとは対照的だ。

万能ではない「テクノロジー決定論」

モロゾフを、「インターネット反対派」と伝えるメディアは多い。

だが、モロゾフは、民主化の運動にツイッターなどが果たすポジティブな役割を、はっきりと認めている。独裁国家での騒乱を、テクノロジーに「一元的に」還元するのは誤りだというのが、モロゾフの考えだ。

「サイバー空想家」の議論が、抽象的で、現実味に欠ける理由の一つは、そこに政治的、経済的な文脈が欠如しているためだ。

彼らの議論によれば、インターネットや携帯電話を与えれば、独裁体制は必然的に崩壊することになる。イランやチュニジア、エジプトの歴史や政治、経済状況が議論されることはまれで、あたかも革命は「真空地帯」に起こるかのようだ。

こうした「テクノロジー決定論」対して、モロゾフは、テクノロジーと同時に、それを利用する社会の文脈を考えあわせる必要性を強調する。

すでに民主化された国では、「サイバー空想家」の議論もそれなりの妥当性があるだろう。だが、権威主義体制ではそれは通用しない。それがモロゾフの主張だ。

「インターネットの自由」

今日、米国が民主主義を推進する舞台は、サイバースペースに移っている。米国の外交政策にとって、インターネットは最重要項目の一つだ。

「権威主義体制との戦い (war on authoritarianism)」は、「インターネットの自由をめぐる戦い (war for Internet freedom)」にとってかわったのだ。

2010年1月、クリントン国務長官は、「インターネットの自由」と題する演説を行った。

その中で、同長官は、地下出版物が出回ったことが、ベルリンの壁の崩壊を招いたと述べ、今日、そうした「地下出版物」に相当するのは、インターネットだと説く(*)。

ツイッターやフェイスブックの例に示されるように、世界でインターネット関連ビジネスを牽引しているのは、間違いなく米国だ。その力を利用して、外交においても主導権を握ろうという意図だ。

こうして、「米国のビジネス」が「世界正義」と結びつくことになる。

「グーグルが輸出しているのは、製品やサービスではない。自由を輸出しているのだ」—。

「インターネットのグル(導師)」と呼ばれる、ニューヨーク大学のクレイ・シャーキーの発言は、こうした文脈を念頭において読み直してみる必要があるだろう。

「ツイッター革命」がもてはやされるとき、米国の関心が、「革命」そのものよりも「ツイッター」(の影響力)の方にあるようにみえても当然のことなのだ。

(*) 情報の流入が共産圏が崩壊させたのかどうかは、決して明らかではない。「サイバー空想家」の議論と同様に、共産圏の内部はすでに崩壊していたことなど、当時の文脈がここでは無視されている。

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