ニューヨークにシリコンバレーはいらない

米国でテクノロジー系ベンチャーの拠点といえば、シリコンバレーを連想する人が多いだろう。

そのシリコンバレーの地位は決して安泰ではない。ニューヨーク市が急ピッチで起業家の街へと変貌を遂げようとしているからだ。

躍進するニューヨーク発のベンチャー

ニューヨークでは、近年、ベンチャービジネスが活発化している。

2008年には、ニューヨークのスタートアップ企業 (創業後間もないベンチャー企業) 116社が、アーリー・ステージ (初期段階) の投資を受けた。2009年にはその数が150社に増加している。

2009年に投資を受けたシリコンバレーのスタートアップ企業は336社。数では依然シリコンバレーに及ばないが、ニューヨークのスタートアップビジネスは急速な伸びを示している。

TumblrVimeoFoursquareMeetupEtsy —。こうしたニューヨーク発のベンチャービジネスは、日本の人も耳にしたことがあるのではないだろうか。

なかでも、昨年最も成長を遂げたのは、キックスターター (Kickstarter) だろう。

2009年にブルックリンで立ち上がった同社は、プロジェクトに寄付を募るプラットフォームを提供している。

資金を必要とする人が、構想しているプロジェクトの概要を同社のウェブにアップロードし、それを見て面白いと思った人は、思い思いの金額を寄付する仕組みだ。寄付金額の合計が、当初設定した金額を上回った場合、ファンディングを受けることができる。

投資ではなく寄付であること、通常「投資」の対象としてはみなされないような、クリエイティブな案件が多いことが特徴だ。

昨年末には、iPod nano腕時計のキットを開発するという案件が100万ドル近くの寄付を集め、大きな話題を呼んだ。

昨年夏に同社が主催したパーティーには、私も参加した。会場となったダウンタウンのバーには、投資家を含む多くの者が集まり、同社が注目を集め始めていることを実感することができた。

整備されつつあるサポート体制

ニューヨークには、大学や研究機関が数多く存在するため、起業のエンジンとなるアイデアや技術は豊富にある。

「金融の街」として知られるニューヨークに、投資家が多いことは言うまでもない。マーケティング、PRビジネスも多く、ベンチャーのサポート体制は十分だ。

しかし、課題もある。

著名なベンチャーキャピタリストのブラッド・フェルドは、ニューヨークに足りないものを二つ指摘する。エンジニアと高速回線だ。

テクノロジー系ベンチャーにとって、優秀なエンジニアは必要不可欠だが、そうしたエンジニアが足りないのが現状だ。

開発が始まったばかりの新興地域は、家賃が比較的安く、スタートアップ企業のオフィスに適している。

たとえば、ブルックリンのDUMBOから、フォート・グリーン、海軍工廠にかけて、最近オフィスができ始めている。 しかし、ビジネス用の高速回線が整備されていないめ、テクノロジー系のスタートアップ企業は、オフィスを構えるのに二の足を踏んでいる。

ニューヨークにシリコンバレーはいらない

面白いアイデアや優良な技術があれば、ビジネスが自ずと育つわけではない。スタートアップ企業が次々と生み出されるには、それをサポートする環境が必要だ。

スタートアップの「エコシステム (生態系)」は、才能、資本、インフラなど、ベンチャー養成に必要な要素が、有機的に機能するための環境だ。

これらの要素が相互作用することで、新たなビジネスの創造に向けた動きがさらに活発になる。こうして、起業を育む環境は自らを強化し、より多くのスタートアップ企業が生まれることになる。

シリコンバレーは、そのようなエコシステムを形成することができた成功例の一つだ。

シリコンバレーから学ぶことは依然多い。しかし、スタートアップ企業のエコシステムは、決して一様ではない。それぞれの街が特有のエコシステムを醸成する必要がある。ニューヨークはシリコンバレーではなない。

ニューヨークに住むベンチャーキャピタリストであり、ツイッターのボードメンバーも務めるフレッド・ウィルソソンは、ニューヨークに特有のアーティスティックな環境が、当地のスタートアップ企業に影響していることを指摘する。

ウィルソンによれば、VimeoTumblrなどは、「ニューヨーク型のウェブデザイン」であり、西海岸のそれとは明らかに異なっている。

SoHoにオフィスを構えるGawkerなど、出版系のスタートアップ企業が多いのは、ニューヨークが出版の中心地であることを反映したものだ。

ニューヨークは、米国で最も多様性の豊かな街だ。シリコンバレーにはない、独自の起業文化をもつエコシステムが求められるはずだ。

スタートアップ企業のエコシステム醸成には数十年が必要

米国の失業率は、10%近い高水準が続いている。しかし、ニューヨークのスタートアップ企業には旺盛な雇用需要がある。多くのベンチャービジネスが、現在も様々な職種の人を求めている。

だが、人材のミスマッチから、雇用には至らないケースが多いという。候補者の多くが、テクノロジー系ベンチャーに関する経験と知識を十分にもっておらず、即戦力にならないのが理由だ。

スタートアップ企業の拠点としての歴史が浅いニューヨークでは、エンジニアに限らず、ビジネス担当の人材にも、スタートアップビジネスに必要な知識や経験が欠けているという。

エコシステムは様々な要素を自らにとりこんでいく、包括的なシステムだ。その生成に、方程式があるわけではない。試行錯誤を繰り返すことで、それぞれの街にふさわしいエコシステムを模索し続けるしかない。

それには時間がかかり、失敗がつきものだ。エコシステムの醸成には、数十年の歳月が必要だと多くの識者は言う。

今日われわれが「シリコンバレー」と呼んでいる試みが着手されたのは、約50年も前だということを思い出しておこう。

ニューヨークは、スタートアップ企業の街に向けた転換期の中にある。

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