国境を超える大学ビジネス

優秀な頭脳や才能をめぐって、頭脳争奪戦が国際化している。それと表裏一体の関係にあるのは、グローバル化する大学ビジネスだ。

才能が決定する企業や国家の競争力

今日のビジネスを牽引するのは、知識やアイデアだ。企業が豊かな知識を備えた「才能」の確保に奔走するのは当然である。企業だけではない。「才能」の存在は、国や都市の競争力をも決定する。

従来、「FIRE」 (金融、保険、不動産)が、ニューヨークのようなグローバル都市に必要な条件だと考えられてきた。これに対して、ニューヨーク大学 (NYU) の学長、ジョン•セクストンは、「アイデアの首都」たる21世紀の都市には、「FIRE」に加えて「ICE」 (知的、文化、教育的資産)が必要だと強調する

「ICE」を形成するのは、ほかでもない大学だ。研究機関としての大学は、基礎研究など、イノベーションの不可欠なエンジンだ。そして、企業が追い求める「才能」を輩出するのは大学にほかならない。

米国の競争力は、大学に依存していると言っても過言ではないだろう。

増加を続ける留学生

教育目的で外国に渡航する、いわゆる留学生の数は、年々増加している。今日、国境を超える学生の数は世界中で290万人に達する(*1)。最も多い留学先は米国(22%)。次に続く英国(12%)とオーストラリア(11%)を大きく引き離している。

大学院生に限定すると、米国への集中はいっそう著しい。世界中の大学院留学生のおよそ3分の2が米国の大学に在籍しており、コンピュータサイエンス、経済学、エンジニアリング、物理学、数学の分野では、米国の大学に在籍する博士課程の生徒の半分以上が外国人というありさまだ。「米国人向けのアファーマティヴ•アクションが必要」ともらす教授もいるほどである。

米国大学のリクルート活動と海外分校

留学先としての人気を維持するには、相当の努力と資源が必要だ。米国の大学は、多額のコストをかけて、マーケティング活動に余念がない。

世界中にリクルーターを派遣し、将来の生徒達へのアプローチを行っている。米国教育省は、各大学の学長を率いて各国を巡回している。国をあげてのグローバルなリクルート活動だ。

生徒を米国にリクルートするだけでなく、外国での分校設置を進める大学も多い。なかでも注目を集めているのは、NYUのアブダビ校だ。アブダビにキャンパスを新設し、今年の秋学期から授業を開始している。ニューヨークのキャンパスと同じクオリティの授業を提供するとセクストン学長は言う。

同様の構想を抱いている大学は多い。コロンビア大学のある大学院は、日本に分校を設置する計画を進めていたが、教員の派遣など、コスト面での採算が取れないと判断。分校は断念したものの、東京にオフィスを設けるべく現在も働きかけており、不況時にしては羽振りのいいイベントを日本で開催したばかりだ。もちろん日本への「営業活動」である。

人気を維持するには、良質の教員の確保も必要だ。著名な教授をめぐる競争は激しく、その結果、人気の高い教授はひっぱりだことなる。

ニューヨークとロンドンの大学で同時に教えるため、大西洋を毎週往復している教授を私は知っているが、決して特殊な例ではない。NYUはアブダビに教員を派遣している。チャンスがあるとみれば、教員も海外異動を厭わない。大学のグローバル化に伴い、教員のグローバル化も必然なのだ。

多国籍化の進展と保護主義の台頭

ベン•ウィルダヴスキーは、その著書『The Great Brain Race』において、大学ビジネスが国際貿易と同じ様相を呈してきていると指摘している。

企業が安価なコストを求めて世界中を動き回るように、教員、学生、研究者も自分にとって最適な場所を求めてグローバルに移動している。知名度の高いNYUやコロンビア大学のような「ブランドビジネス」のグローバル展開は、多国籍企業のそれと重ね合わせてみることができるだろう。

「グローバル•ネットワーク大学」—。NYUは、ニューヨーク、アブダビのほかに、欧州、中国にもキャンパスを新設し、学生がそれらのキャンパス間を自由に行き来することができるようにする計画だ。いわば「多国籍大学」の誕生である。

こうしたグローバル化は、一方では摩擦や抵抗も招いている。グローバル化に対抗する「保護主義」が各国でみられる。

英国やオーストリアでは、出身地により、受け入れる医学生の枠を設定している。また、大学院卒業後のトレーニングについても、外国の大学を卒業生した者の数を制限している。「自給自足」への方策だ。

グローバル化を主導するようにみえる米国内でも、一部の大学では同様の動きが観察されている。米国の大学院で外国人学生が増加していることを懸念し、テネシー大学の大学院では、外国人の学生枠を全体の20%以内に制限している。米国人学生への「アファーマティヴ•アクション」を実行していることになる。

大学のグローバル競争における米国の優位は、今後も当面持続するだろう。多くのビジネスと同様に、大学ビジネスのゲームのルールを規定しているのは米国のようにみえる。近年、頭脳の「逆流出」が指摘されることも多いが、高い業績の研究者は米国に残る傾向にあるという報告もある。

一方、ブランド指向が強まり、もはや国とは関係なく、「競争力」のある特定の大学が一人勝ちするという観測もある。「多国籍大学」は、そうした試みの一つとも考えられる。

経済における大学の果たす役割は、今後さらに大きくなると予想される。海外へと向かう学生の数は引き続き増加すると考えられており、2035年には現在の3倍近くにおよぶ8百万人とも言われる(*2)。

(*1) Observatory on Borderless Higher Educationのレポートによる
(*2) Philip Altbachによる予測

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2 Responses to 国境を超える大学ビジネス

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