起業家という「神話」

かつての同僚のB氏は、一度もスーツを着たことがない。カリフォルニアの人らしく、働くときも、人に会うときも、ジーンズにスニーカーというスタイルだ。

彼の人生で、ジャケットを着たのは二回だけ。一度目は大学を出る頃の就職活動。二度目はビジネスの買収のため、ドイツの伝統ある会社を私と訪問したときだ。

最初にジャケットを着た面接は、ドレスコードが厳しいことで知られたIBM。どうしてもスーツは着たくなかった彼は、ブレザーを着て面接にのぞんだが、彼以外の学生は全員スーツを着ていたそうだ。

カジュアルな服装にもかかわらずB氏はIBMに受かったが、同社に入社することはなく、自分でソフトウェアのビジネスを始めた。ニッチな分野だが、大きな市場シェアをもつビジネスに育てた後、その会社を売却して財産を築いた。いわゆる成功した起業家の一人だ。

窮屈な組織やドレスコードがイヤで、自分でビジネスを始めたようなものだとB氏は言う。「起業」と言えば聞こえは良いが、実際はそんなものなのである。

同様に、「起業家」には独特のイメージがあるようだ。多くの人は、「起業家」と聞くと、マーク•ザッカーバーグのような若い異端児、あるいはスティーブ•ジョブズのようなカリスマ的な人物を連想することだろう。

起業家精神を支援するカウフマン財団は、米国における起業例を調査した結果をまとめている。『The Anatomy of Entrepreneur: Family Background and Motivation 』によると、新しくビジネスを始めた人の平均年齢は40歳である。

ビジネスのスタートアップと聞くと、20代、30代のイメージがあるが、実際にはもっと年齢層が高いことになる。

著名な起業家たちが何歳の時にビジネスを始めたのかをまとめたコラムがある。それを見ると、若くしてビジネスを始める人もいれば、晩年に創業して成功する人もいる。スタートアップに年齢は関係ないのだ。

年齢だけではない。カウフマン財団の上記レポートによれば、結婚して子供がいる人達が起業を牽引していることがわかる。「背負うもの」が大きくなると腰が重くなると考えがちだが、背負いながらチャレンジする人が多いことがわかる。

ニューヨーク市のブルックリンにあるブルックリン•ブリュワリー社は、1987年に創業したビール会社だ。同社は、起業の成功例として言及されることも多い。

同社の起業劇をつづった『Beer School』の中で、創業者の一人であるトム•ポッターが、起業家のイメージについてふれている。

いろいろなタイプの起業家がいてしかるべきだと指摘したうえで、会社員としてやっていけた者こそが起業に向いているとポッターは述べている。

結局のところ、ビジネスは人との関係だ。組織でやっていける者こそが、自分でビジネスを始めるにふさわしいというのが彼の持論だ。

世間一般の起業家像は、「神話」とでも言うべきものだ。起業家が皆、スティーブ•ジョブズやマーク•ザッカーバーグである必要はない。実際には、「起業家らしくない起業家」が大勢いるのである。

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